原文
不所念 来座君乎 佐保川乃 河蝦不令聞 還都流香聞
作者
按作村主益人(くらつくりのすぐりますひと)
よみ
思(おも)ほえず、来ましし君を、佐保川(さほがは)の、かはづ聞かせず、帰(かへ)しつるかも
意味
思いかけずにいらっしゃったあなた様を、(夜になったら鳴く)佐保川(さほがは)の蛙の声も聞かせずにお帰ししたことです。
「おもてなしをしたつもりですが、お気に召さなくてお帰りになったのかも。」という気持ちを詠んだ歌です。
補足
この歌の題詞には、「按作村主益人(くらつくりのすぐりますひと)の歌一首」とあります。
この歌の左注には、「右、内匠大属(たくみのだいさかん)按作村主益人(くらつくりのすぐりますひと)聊(いささか)かに飲饌(いんせん:飲食)を設けて長官の佐為王(さいのおおきみ)に饗(あへ)す(食事・酒を出してもてなした)。未だ、日、斜(くた)つに及ばねば(まだ日は傾いていないのに)、王既に還歸(かへ)りぬ(王はすでに帰ってしまわれた)。ここに益人、厭(あ)かぬ歸り(もてなしに満足されずに帰られたこと)を怜(かな)しみ惜しみ、仍(よ)りて此(こ)の歌を作る。」とあります。