原文
打久津 三宅乃原従 常土 足迹貫 夏草乎 腰尓魚積 如何有哉 人子故曽 通簀文吾子
諾々名 母者不知 諾々名 父者不知 蜷腸 香黒髪丹 真木綿持 阿邪左結垂 日本之 黄楊乃小櫛乎 抑刺 卜細子 彼曽吾攦
作者
不明
よみ
![夏草 by 写真AC](image/m3295_1.jpg)
うちひさつ 三宅(みやけ)の原ゆ 直土(ひたつち)に 足踏み貫(ぬ)き 夏草(なつくさ)を 腰になづみ いかなるや 人の子ゆゑぞ 通(かよ)はすも我子(あご)
うべなうべな 母は知らじ うべなうべな 父は知らじ 蜷(みな)の腸(わた) か黒き髪に 真木綿(まゆふ)もち あざさ結(ゆ)ひ垂(た)れ 大和の 黄楊(つげ)の小櫛(をぐし)を 押(おさ)へ刺す うらぐはし子 それぞ我が妻
意味
(親子の対話風になっています)
三宅(みやけ)の原を素足で歩いて足を傷つけて、夏草(なつくさ)を腰にからませて、いったいどなたの娘さんのところに通っているの、息子よ。
![イラスト by 名倉エリさま](image/m3295_2.jpg)
なるほどなるほど母は知らないでしょう。ごもっともごもっとも父も知らないでしょう。豊かな黒髪に木綿であざさを結い垂らし(髪飾りにし)、大和の黄楊(つげ)の櫛(くし)を押さえ刺している、とても美しい娘さん。それこそが私の妻なのです。
・「うちひさす」は、三宅(みやけ)を導く枕詞です。
・「蜷(みな)の腸(わた)」は、蜷(にな:巻貝の一種)の腸が黒いところから「か黒き」を導く枕詞です。
補足
・「三宅の原」は現在の奈良県磯城郡三宅町とされています。