原文

天降就 神乃香山 打靡 春去来者 櫻花 木暗茂 松風丹 池浪飆 邊都遍者 阿遅村動 奥邊者 鴨妻喚 百式乃 大宮人乃 去出 榜来舟者 竿梶母 無而佐夫之毛 榜与雖思

作者

鴨足人(かものたるひと)

よみ

天降(あも)りつく、神の香具山(かぐやま)、うち靡(なび)く、春さり来れば、桜花(さくらばな)、木(こ)の暗茂(くれしげ)に、松風に、池波立ち、辺(へ)つ辺(へ)には、あぢ群(むら)騒き、沖辺(おきへ)には、鴨妻(かもつま)呼ばひ、ももしきの、大宮人(おほみやひと)の、退(まか)り出て、漕(こ)ぎける船は、棹楫(さをかぢ)も、なくて寂(さぶ)しも、漕(こ)がむと思へど

桜 撮影(2011.04) by きょう

意味

天から降ってきたとされている神の香具山(かぐやま)、春がやってくると桜花(さくらばな)が木陰を暗くするほどに咲き、松風に池は波を立て、岸辺にはあぢ群(むら)が騒いで、沖では鴨(かも)が妻を呼び、大宮人(おほみやびと)が出てきて漕いだ舟は、棹(さお)も舵(かじ)もなくて寂しいことです。漕ごうと思っても。

補足

この歌の左注には「今考えてみるに、奈良に遷都した後に、昔を偲び悲しんでこの歌を作ったか。」とあります。

更新日: 2012年03月11日(日)