原文: 天雲之 向伏國 武士登 所云人者 皇祖 神之御門尓 外重尓 立候 内重尓 仕奉 玉葛 弥遠長 祖名文 継徃物与 母父尓 妻尓子等尓 語而 立西日従 帶乳根乃 母命者 齋忌戸乎 前坐置而 一手者 木綿取持 一手者 和細布奉 平 間幸座与 天地乃 神祇乞祷 何在 歳月日香 茵花 香君之 牛留鳥 名津匝来与 立居而 待監人者 王之 命恐 押光 難波國尓 荒玉之 年經左右二 白栲 衣不干 朝夕 在鶴公者 何方尓 念座可 欝蝉乃 惜此世乎 露霜 置而徃監 時尓不在之天
作者: 大伴三中(おおとものみなか)
よみ: 天雲(あまくも)の 向伏(むかぶ)す国の ますらをと 言はれし人は 天皇(すめろき)の 神の御門(みかど)に 外(と)の重(へ)に 立ち侍(さもら)ひ 内(うち)の重(へ)に 仕(つか)へ奉(まつ)りて 玉葛(たまかづら) いや遠長(とほなが)く 祖(おや)の名も 継(つ)ぎ行(ゆ)くものと 母父(おもちち)に 妻(つま)に子どもに 語(かた)らひて 立ちにし日より たらちねの 母の命(みこと)は 斎瓮(いはひへ)を 前に据(す)ゑ置(お)きて 片手(かたて)には 木綿(ゆふ)取り持ち 片手には 和栲(にきたへ)奉(まつ)り 平(たひら)けく ま幸(さき)くいませと 天地(あめつち)の 神を祈(こ)ひ祷(の)み いかにあらむ 年月日(としつきひ)にか つつじ花 にほへる君が にほ鳥の なづさひ来(こ)むと 立ちて居(ゐ)て 待ちけむ人は 大君(おほきみ)の 命(みこと)畏(かしこ)み おしてる 難波(なには)の国に あらたまの 年(とし)経(ふ)るまでに 白栲(しろたへ)の 衣(ころも)も干(ほ)さず 朝夕(あさよひ)に ありつる君は いかさまに 思ひませか うつせみの 惜(を)しきこの世を 露霜(つゆしも)の 置(お)きて去(い)にけむ 時にあらずして
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