第十八巻 : 天皇の敷きます国の天の下四方の道には

2006年08月20日(日)更新


原文: 須賣呂伎能 之伎麻須久尓能 安米能之多 四方能美知尓波 宇麻乃都米 伊都久須伎波美 布奈乃倍能 伊波都流麻泥尓 伊尓之敝欲 伊麻乃乎都頭尓 万調 麻都流都可佐等 都久里多流 曽能奈里波比乎 安米布良受 日能可左奈礼婆 宇恵之田毛 麻吉之波多氣毛 安佐其登尓 之保美可礼由苦 曽乎見礼婆 許己呂乎伊多美 弥騰里兒能 知許布我其登久 安麻都美豆 安布藝弖曽麻都 安之比奇能 夜麻能多乎理尓 許能見油流 安麻能之良久母 和多都美能 於枳都美夜敝尓 多知和多里 等能具毛利安比弖 安米母多麻波祢

作者: 大伴家持(おおとものやかもち)

よみ: 天皇(すめろき)の、敷(し)きます国の、天(あめ)の下、四方(よも)の道には、馬(うま)の爪(つめ)、い尽(つ)くす極(きは)み、舟舳(ふなのへ)の、い果(は)つるまでに、いにしへよ、今のをつづに、万調(よろづつき)、奉(まつ)るつかさと、作りたる、その生業(なりはひ)を、雨降らず、日の重(かさ)なれば、植(う)ゑし田も、蒔(ま)きし畑(はたけ)も、朝ごとに、しぼみ枯(か)れゆく、
そを見れば、心を痛(いた)み みどり子の、乳(ち)乞(こ)ふがごとく、天(あま)つ水、仰(あふ)ぎてぞ待(ま)つ、あしひきの、山のたをりに、この見ゆる、天(あま)の白雲(しらくも)、海神(わたつみ)の、沖(おき)つ宮辺(みやへ)に、立ちわたり、との曇(ぐも)りあひて、雨(あめ)も賜(たま)はね

意味: 天皇が治められている国の四方に拡がる道には、馬(うま)の爪がすり減ってしまうほどの果ての地、舟のへさきが行き着く海のはてまでに、昔から今までいろいろな貢物(みつぎもの)の最も重要なものとしての稲作・農業なのに、雨が降らない日が続いたので、植えた田も、(種を)蒔いた畑も朝ごとにしぼんで枯れてゆきます。
それを見ると心が痛んで、赤ちゃんが乳を欲しがるように、天からの水を、天を仰いで待っています。山の低くなったところに見える天の白雲(しらくも)が、海神(わたつみ)の、沖(おき)の宮辺まで伸びて、曇って雨(あめ)を降らせてください。

雨雲 撮影(2006.08) by きょう

この歌の題詞に「天平感宝1年(西暦749年)5月6日から旱魃(かんばつ)で、百姓の田畑はしだいに彼しぼんできた。6月1日になってたちまちに雨雲が現れた。そこで、作った雲の歌一首」とあります。


第十八巻