原文

由布左礼婆 安之敝尓佐和伎 安氣久礼婆 於伎尓奈都佐布 可母須良母 都麻等多具比弖 和我尾尓波 之毛奈布里曽等 之路多倍乃 波祢左之可倍弖 宇知波良比 左宿等布毛能乎 由久美都能 可敝良奴其等久 布久可是能 美延奴我其登久 安刀毛奈吉 与能比登尓之弖 和可礼尓之 伊毛我伎世弖思 奈礼其呂母 蘇弖加多思吉弖 比登里可母祢牟

作者

遣新羅使(けんしらぎし)の丹比大夫(たじひのまえつきみ)

よみ

葦と鴨 撮影() by きょう

夕されば、葦辺(あしへ)に騒き、明け来れば、沖になづさふ、鴨(かも)すらも、妻とたぐひて、我が尾には、霜(しも)な降りそと、白栲(しろたへ)の 羽さし交(か)へて、うち掃(はら)ひ、さ寝とふものを、行く水の 帰らぬごとく、吹く風の、見えぬがごとく、跡(あと)もなき 世の人にして、別れにし、妹(いも)が着せてし、なれ衣 袖片(そでかた)敷きて、ひとりかも寝む

意味

夕暮れになると葦辺で騒ぎ、明け方になると沖に漂う鴨(かも)でさえも妻といっしょにそろって、尾には霜(しも)が降らないようにと、白い羽を交わして払って寝るというのに、流れ行く水が帰ってこないように、吹くが見えないように、はかないこの世の人として別れてしまった妻が着せてくれた、着慣れた衣をひとつだけ敷いてひとりぼっちで寝るのです。

補足

この歌の題詞には「古き挽歌(ばんか)一首、并(なら)びに短歌」とあります。

亡くなった奥様のことを悲しんで詠んだ歌です。

更新日: 2020年01月26日(日)