原文

衣手 常陸國 二並 筑波乃山乎 欲見 君来座登 熱尓 汗可伎奈氣 木根取 嘯鳴登 <峯>上乎 <公>尓令見者 男神毛 許賜 女神毛 千羽日給而 時登無 雲居雨零 筑波嶺乎 清照 言借石 國之真保良乎 委曲尓 示賜者 歡登 紐之緒解而 家如 解而曽遊 打靡 春見麻之従者 夏草之 茂者雖在 今日之樂者

作者

高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)歌集より

よみ

衣手(ころもで) 常陸(ひたち)の国の 二(ふた)並ぶ 筑波の山を 見まく欲り 君来ませりと 暑けくに 汗かき嘆(なげ)げ 木の根取り うそぶき登り 峰の上を 君に見すれば 男神(をかみ)も 許したまひ 女神(めかみ)も ちはひたまひて 時となく 雲居(くもゐ)雨降る 筑波嶺(つくはね)を さやに照らして いふかりし 国のまほらを つばらかに 示したまへば 嬉(うれ)しみと 紐(ひも)の緒(を)解きて 家のごと 解けてぞ遊ぶ うち靡(なび)く 春見ましゆは 夏草の 茂くはあれど 今日の楽しさ

筑波山 撮影(2004.05) by きょう

意味

常陸(ひたち)の国の二峰の筑波の山を見たいと、君がおっしゃるので、暑いのに汗をかきながら木の根をつかんで、激しく息をしながら登って、頂上を君にお見せしたら、男神もお許しになって、女神もお助けくださり、いつもは雲がかかって雨が降る筑波嶺(つくはね)をすっきりと照らして、はっきりとしなかった優れた国の地を細かに見せてくださったので、うれしくて紐を解いて家に居るようにくつろいで遊ばれ、春に見るよりは、夏草が生い茂ってはいるけれど、今日は本当に楽しいです。

衣手(ころもで)」は「常陸(ひたち)の国」を導く枕詞(まくらことば)です。

補足

この歌の題詞に「検税使(けんぜいし)大伴卿(おおとものまえつきみ)が筑波山に登った時の歌一首[ならびに短歌]」とあります。

大伴卿(おおとものまえつきみ)は、大伴旅人(おおとものたびと)と考えられています。

更新日: 2012年08月05日(日)