大伴旅人(おおとものたびと) Otomo-no-tabito
大伴旅人(おおとものたびと)は3年ほど大宰府の長官として赴任していたことがあり、万葉集には「大宰帥(だざいのそち)大伴卿(おおともきょう・おほとものまえつきみ)」とか「大納言卿(だいなごんきょう)」などの敬称で載っています。
- Otomo-no-Tabito once served as Chief of Dazaifu for three years. "Dazai-no-Sochi Otomo-no-Maetsukimi" and "Dainagonkyo" are listed as his honorific titles in Manyoshu.
[生没] 天智4年(西暦665) ~ 天平3年(西暦731)
[家族] 父 : 安麻呂(やすまろ)、子 : 大伴家持(おおとものやかもち)など
母 : 不明ですが、多比等女(たびとめ)とも巨勢郎女(こせのいらつめ)ともいわれます。
[略歴]
- 和銅3年(西暦710): 元旦の朝賀(ちょうが)に左将軍として隼人(はやと)、蝦夷(えみし)らを率いる。
- 養老4年(西暦720): 征隼人持節大将軍(せいはやとじせつだいしょうぐん)として九州に赴任し、成果をあげて平城京に戻る。藤原不比等(ふひと)が亡くなったため、不比等(ふひと)に太政大臣(だじょうだいじん)正1位を贈る役目をする。
- 神亀4年(西暦727): 大宰帥(だざいのそち:太宰府長官)として大宰府に赴任。(ただし、はっきりとはしていません)。
- 天平元年(西暦729): 大宰大弐多治比県守、権参議に任命される。
- 天平2年(西暦730): 大宰府から平城京に戻る。
大伴旅人(おおとものたびと)が詠んだ歌 Poems composed by Otomo-no-Tabito
万葉集には、76首の歌が載っていますが、「酒を讃(ほ)むるの歌13首」というのが目立ちますね。お酒が大変好きだったようです。なお、万葉集以外に、「懐風藻(かいふうそう)」に五言一首が載っています。
- Manyoshu includes 76-piece poems composed by Otomo-no-tabito. Especially "13 poems to praise sake" are noticeable. It seems that he liked to drink sake very much.
0315: み吉野の吉野の宮は山からし貴くあらし.......(長歌)
0316: 昔見し象の小川を今見ればいよよさやけくなりにけるかも
0331: 我が盛りまたをちめやもほとほとに奈良の都を見ずかなりなむ
0332: 我が命も常にあらぬか昔見し象の小川を行きて見むため
0333: 浅茅原つばらつばらにもの思へば古りにし里し思ほゆるかも
0334: 忘れ草我が紐に付く香具山の古りにし里を忘れむがため
0335: 我が行きは久にはあらじ夢のわだ瀬にはならずて淵にありこそ
[ 大宰帥(だざいのそち)大伴卿(おおともきょう)の酒(さけ)を讃(ほ)むる歌十三首 ]
0338: 験なきものを思はずは一杯の濁れる酒を飲むべくあるらし
0339: 酒の名を聖と負ほせしいにしへの大き聖の言の宣しさ
0340: いにしへの七の賢しき人たちも欲りせしものは酒にしあるらし
0341: 賢しみと物言ふよりは酒飲みて酔ひ泣きするしまさりたるらし
0342: 言はむすべ為むすべ知らず極まりて貴きものは酒にしあるらし
0343: なかなかに人とあらずは酒壷になりにてしかも酒に染みなむ
0344: あな醜賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む
0345: 価なき宝といふとも一杯の濁れる酒にあにまさめやも
0346: 夜光る玉といふとも酒飲みて心を遣るにあにしかめやも
0347: 世間の遊びの道に楽しきは酔ひ泣きするにあるべくあるらし
0348: この世にし楽しくあらば来む世には虫に鳥にも我れはなりなむ
0349: 生ける者遂にも死ぬるものにあればこの世なる間は楽しくをあらな
0350: 黙居りて賢しらするは酒飲みて酔ひ泣きするになほしかずけり
↑ ここまで[ 大宰帥(だざいのそち)大伴卿(おおともきょう)の酒(さけ)を讃(ほ)むる歌十三首 ]
0438: 愛しき人のまきてし敷栲の我が手枕をまく人あらめや
0439: 帰るべく時はなりけり都にて誰が手本をか我が枕かむ
0440: 都なる荒れたる家にひとり寝ば旅にまさりて苦しかるべし
0446: 我妹子が見し鞆の浦のむろの木は常世にあれど見し人ぞなき
0447: 鞆の浦の礒のむろの木見むごとに相見し妹は忘らえめやも
0448: 礒の上に根延ふむろの木見し人をいづらと問はば語り告げむか
0449: 妹と来し敏馬の崎を帰るさにひとりし見れば涙ぐましも
0450: 行くさにはふたり我が見しこの崎をひとり過ぐれば心悲しも
0451: 人もなき空しき家は草枕旅にまさりて苦しかりけり
0452: 妹としてふたり作りし我が山斎は木高く茂くなりにけるかも
0453: 我妹子が植ゑし梅の木見るごとに心咽せつつ涙し流る
0555: 君がため醸みし待酒安の野にひとりや飲まむ友なしにして
0574: ここにありて筑紫やいづち白雲のたなびく山の方にしあるらし
0577: 我が衣人にな着せそ網引する難波壮士の手には触るとも
0793: 世間は空しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり
0806: 龍の馬も今も得てしかあをによし奈良の都に行きて来むため
0807: うつつには逢ふよしもなしぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ
0810: いかにあらむ日の時にかも声知らむ人の膝の上我が枕かむ
0811: 言とはぬ木にはありともうるはしき君が手馴れの琴にしあるべし
0822: 我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも
0847: 我が盛りいたくくたちぬ雲に飛ぶ薬食むともまた変若めやも
0848: 雲に飛ぶ薬食むよは都見ばいやしき我が身また変若ぬべし
0849: 残りたる雪に交れる梅の花早くな散りそ雪は消ぬとも
0850: 雪の色を奪ひて咲ける梅の花今盛りなり見む人もがも
0851: 我がやどに盛りに咲ける梅の花散るべくなりぬ見む人もがも
0852: 梅の花夢に語らくみやびたる花と我れ思ふ酒に浮かべこそ
0853: あさりする海人の子どもと人は言へど見るに知らえぬ貴人の子と
0854: 玉島のこの川上に家はあれど君をやさしみあらはさずありき
0855: 松浦川川の瀬光り鮎釣ると立たせる妹が裳の裾濡れぬ
0856: 松浦なる玉島川に鮎釣ると立たせる子らが家道知らずも
0857: 遠つ人松浦の川に若鮎釣る妹が手本を我れこそ卷かめ
0858: 若鮎釣る松浦の川の川なみの並にし思はば我れ恋ひめやも
0859: 春されば我家の里の川門には鮎子さ走る君待ちがてに
0860: 松浦川七瀬の淀は淀むとも我れは淀まず君をし待たむ
0861: 松浦川川の瀬早み紅の裳の裾濡れて鮎か釣るらむ
0862: 人皆の見らむ松浦の玉島を見ずてや我れは恋ひつつ居らむ
0863: 松浦川玉島の浦に若鮎釣る妹らを見らむ人の羨しさ
0871: 遠つ人松浦佐用姫夫恋ひに領巾振りしより負へる山の名
0956: やすみしし我が大君の食す国は大和もここも同じとぞ思ふ
0957: いざ子ども香椎の潟に白栲の袖さへ濡れて朝菜摘みてむ
0960: 隼人の瀬戸の巌も鮎走る吉野の瀧になほしかずけり
0961: 湯の原に鳴く葦鶴は我がごとく妹に恋ふれや時わかず鳴く
0967: 大和道の吉備の児島を過ぎて行かば筑紫の児島思ほえむかも
0968: ますらをと思へる我れや水茎の水城の上に涙拭はむ
0969: しましくも行きて見てしか神なびの淵はあせにて瀬にかなるらむ
0970: 指進の栗栖の小野の萩の花散らむ時にし行きて手向けむ
1473: 橘の花散る里の霍公鳥片恋しつつ鳴く日しぞ多き
1541: 我が岡にさを鹿来鳴く初萩の花妻どひに来鳴くさを鹿
1542: 我が岡の秋萩の花風をいたみ散るべくなりぬ見む人もがも
1639: 沫雪のほどろほどろに降りしけば奈良の都し思ほゆるかも
1640: 我が岡に盛りに咲ける梅の花残れる雪をまがへつるかも