第九巻 : 父母が成しのまにまに箸向ふ弟の命は
2007年08月19日(日)更新 |
原文: 父母賀 成乃任尓 箸向 弟乃命者 朝露乃 銷易杵壽 神之共 荒競不勝而 葦原乃 水穂之國尓 家無哉 又還不来 遠津國 黄泉乃界丹 蔓都多乃 各<々>向々 天雲乃 別石徃者 闇夜成 思迷匍匐 所射十六乃 意矣痛 葦垣之 思乱而 春鳥能 啼耳鳴乍 味澤相 宵晝不<知> 蜻蜒火之 心所燎管 悲悽別焉 作者: 田辺福麻呂歌集(たなべのさきまろ)歌集より よみ: 父母(ちちはは)が、成(な)しのまにまに、箸(はし)向(むか)ふ、弟(おと)の命(みこと)は、朝露(あさつゆ)の、消(け)やすき命(いのち)、神の共(むた)、争ひかねて、葦原(あしはら)の、瑞穂(みづほ)の国に、家(いへ)なみか、また帰り来(こ)ぬ、遠(とほ)つ国 黄泉(よみ)の境(さかひ)に、延(は)ふ蔦(つた)の、おのが向き向き、天雲(あまくも)の、別れし行けば、闇夜(やみよ)なす 思ひ惑(まと)はひ、射(い)ゆ鹿(しか)の、心を痛み、葦垣(あしかき)の、思ひ乱れて、春鳥の 哭(ね)のみ泣きつつ、あぢさはふ、夜昼(よるひる)知らず、かぎろひの、心燃えつつ 嘆(なげ)く別れを |
意味: (私と)父母(ちちはは)が同じという縁(えん)で2本の箸(はし)のようにいつも一緒だった弟は、朝露(あさつゆ)のようにはかない命で、神様が定めた寿命には勝てませんでした。 |
闇夜(やみよ)にいるように思い惑って、射られた鹿(しか)をみるように心が痛み、葦垣(あしかき)がばらばらになるように思い乱れて、春鳥のように泣いて、夜昼なくかげろうのように心が燃えながら別れを嘆いたのです。 |
この歌の題詞には、「弟が亡くなったのを悲しんで作った歌」とあります。 |