第十九巻 : うつせみは恋を繁みと春まけて

2005年04月17日(日)更新


原文: 宇都世美波 戀乎繁美登 春麻氣■ 念繁波 引攀而 折毛不折毛 毎見 情奈疑牟等 繁山之 谿敝尓生流 山振乎 屋戸尓引殖而 朝露尓 仁保敝流花乎 毎見 念者不止 戀志繁母

作者: 大伴家持(おおとものやかもち)

よみ: うつせみは、恋(こひ)を繁(しげ)みと、春まけて、思ひ繁(しげ)けば、引き攀(よ)ぢて、折りも折らずも、見るごとに、心なぎむと、茂山(しげやま)の、谷辺(たにへ)に生(お)ふる、山吹(やまぶき)を、宿(やど)に引き植(う)ゑて、朝露(あさつゆ)に、にほへる花を、見るごとに、思(おも)ひはやまず、恋(こひ)し繁(しげ)しも

この世では恋してばかりいて、春が来て、思いが絶えないので、折っても折らなくても、手にとって見れば心が和(なご)むだろうと、草木の茂った山の谷に生えている山吹(やまぶき)を引き抜いてきて、家の庭に植えて、朝露(あさつゆ)に映える花を見るたびに、思いは募(つの)るばかりで、恋心は絶えないことです。

山吹 撮影 by きょう

第十九巻