第十七巻 : おおきみの命かしこみあしひきの山野さはらず
2001年1月28日(日)更新 |
ちょっと長い歌ですが、春にすみれを摘む少女たちの情景が眼にうかぶようです。 |
原文: 憶保枳美能 弥許等可之古美 安之比奇能 夜麻野佐波良受 安麻射可流 比奈毛乎佐牟流 麻須良袁夜 奈邇可母能毛布 安乎尓余之 奈良治伎可欲布 多麻豆佐能 都可比多要米也 己母理古非 伊枳豆伎和多利 之多毛比尓 奈氣可布和賀勢 伊尓之敝由 伊比都藝久良之 餘乃奈加波 可受奈枳毛能曽 奈具佐牟流 己等母安良牟等 佐刀□(田偏に比)等能 安礼邇都具良久 夜麻備尓波 佐久良婆奈知利 可保等利能 麻奈久之婆奈久 春野尓 須美礼乎都牟等 之路多倍乃 蘇泥乎利可敝之 久礼奈為能 安可毛須蘇妣伎 乎登賣良波 於毛比美太礼弖 伎美麻都等 宇良呉悲須奈理 己許呂具志 伊謝美尓由加奈 許等波多奈由比 作者:大伴宿禰池主(おおとものすくねいけぬし) よみ: おおきみの命(みこと)かしこみあしひきの山野さはらず、天(あま)ざかる鄙(ひな)も治むる丈夫(ますらを)や何かもの思ふ、あをによし奈良路来(き)通ふ玉づさの使絶えめや、こもり恋ひ息づきわたり下思(したもひ)に嘆かふわが背、古(いにしへ)ゆ言ひ継ぎくらし、世の中は数なきものそ慰むる事もあらむと里人のわれに告ぐらく、山びには櫻花散り、かほ鳥の間なくしば鳴く春の野に、すみれを摘むと白妙の袖折り返し、紅の赤裳(も)裾(すそ)引き、おとめらは思ひ乱れて君待つとうら恋ひすなり心ぐし、いざ見に行かな事はたなゆひ |
意味: おおきみの命をうけて山や野をもものともせず、田舎まで治めるあなたが何を心配なさるのです。奈良路を行き交う使いの人が絶えたりしないでしょう。恋思いにため息をつくあなた、昔から言うように、世の中なんてあっという間のことです。何か良いこともありますよと里人が私に言うには、山には桜の花が散って、かほ鳥もひっきりなしに鳴いている春の野ですみれを摘もうと、少女たちが白い袖を折り返して、赤い裳の裾を引きずりながら、あなたをせつなく待っているそうです。ですから、さぁ、見にゆきましょう。行くって約束しましょう。 |