第六巻 : あぢさはふ妹が目離れて敷栲の

2002年6月9日(日)更新


原文: 味澤相 妹目不數見而 敷細乃 枕毛不巻 櫻皮纒 作流舟二 真梶貫 吾榜来者 淡路乃 野嶋毛過 伊奈美嬬 辛荷乃嶋之 嶋際従 吾宅乎見者 青山乃 曽許十方不見 白雲毛 千重尓成来沼 許伎多武流 浦乃盡 徃隠 嶋乃埼々 隈毛不置 憶曽吾来 客乃氣長弥

作者: 山部赤人(やまべのあかひと)

よみ: あぢさはふ、妹(いも)が目離(か)れて、敷栲(しきたへ)の、枕(まくら)もまかず、桜皮(かには)巻(ま)き、作れる船に、真楫(まかぢ)貫(ぬ)き、我(わ)が漕(こ)ぎ来れば、淡路(あはぢ)の、野島(のしま)も過ぎ、印南嬬(いなみつま)、辛荷(からに)の島の、島の際(ま)ゆ、我家(わぎへ)を見れば、青山の、そことも見えず、白雲(しらくも)も、千重(ちへ)になり来ぬ、漕(こ)ぎ廻(た)むる、浦(うら)のことごと、行(ゆ)き隠(かく)る、島の崎々(さきざき)、隈(くま)も置かず、思ひぞ我(わ)が来る、旅の日(け)長み

意味: 嫁さまの目のとどかない遠くにやってきて、手枕(てまくら)もしないで、桜皮(かには)を巻いた船に梶(かじ)を通して漕(こ)いでくると、淡路(あはぢ)の野島(のしま)も印南嬬(いなみつま)も過ぎて、辛荷(からに)の島々の間からわが家のある方を見ると、山のどこかも分からず、たくさんの雲が重なってきました。
漕(こ)ぎめぐる浦(うら)ごとに見えなくなるどの島の崎でもいつでもどこでも故郷(ふるさと)のことを思います。旅が長いので。

日本素材図鑑 近畿版より 淡路島の海岸

野島(のしま)は、淡路島の北淡町(ほくたんちょう)の野島にあたります。1995年1月17日の地震の震源地として知られていますね。

印南嬬(いなみつま)は、加古川の河口付近と考えられているそうです。

辛荷(からに)は、兵庫県揖保郡(いぼぐん)御津町(みつちょう)室津(むろつ)の沖にある三つの小島だということです。


第六巻