万葉集: 白妙(しろたえ)

2010年01月17日(日)更新

栲(たえ)=楮(こうぞ)で作った白い布をいいます。「白妙の~」の用法は次のようなものがあります。

  • 白妙の袖(そで)
  • 白妙の衣(ころも)
  • その他の使われかた : 紐(ひも)、領布(ひれ)、袂(たもと)、襷(たすき)、帯(おび)

歌の例は次の通りです。なお、すべてではありません。また、の印のついた歌は、挽歌(ばんか)です。

0016 : 春過ぎて夏来るらし白妙の衣干したり天の香具山

0230 : 梓弓手に取り持ちてますらをの.......白栲の衣ひづちて立ち留まり.......(長歌)

0443 : 天雲の向伏す国のますらをと.......白栲の衣も干さず.......(長歌)

0460 : 栲づのの新羅の国ゆ人言を.......白栲の衣袖干さず嘆きつつ.......(長歌)

0475 : かけまくもあやに畏し言はまくも.......白栲に舎人よそひて.......(長歌)

0478 : かけまくもあやに畏し我が大君.......白栲に衣取り着て.......(長歌)

0481 : 白栲の袖さし交へて靡き寝し我が黒髪のま白髪になりなむ極み.......(長歌)

0510 : 白栲の袖解き交へて帰り来む月日を数みて行きて来ましを

0614 : 相思はぬ人をやもとな白栲の袖漬つまでに音のみし泣くも

0645 : 白栲の袖別るべき日を近み心にむせひ音のみし泣かゆ

0708 : またも逢はむよしもあらぬか白栲の我が衣手にいはひ留めむ

0804 : 世間のすべなきものは .......白妙の袖振り交はし紅の赤裳裾引き.......(長歌)

0904 : 世間の貴び願ふ七種の.......白栲のたすきを掛けまそ鏡.......(長歌)

0957 : いざ子ども香椎の潟に白妙の袖さへ濡れて朝菜摘みてむ

1079 : まそ鏡照るべき月を白栲の雲か隠せる天つ霧かも

1192 : 白栲ににほふ真土の山川に我が馬なづむ家恋ふらしも

1292 : 江林に臥せる獣やも求むるによき白栲の袖巻き上げて獣待つ我が背

1629 : ねもころに物を思へば言はむすべ.......白栲の袖さし交へてさ寝し夜や.......(長歌)

1675 : 藤白の御坂を越ゆと白栲の我が衣手は濡れにけるかも

1800 : 小垣内の麻を引き干し妹なねが作り着せけむ白栲の紐をも解かず.......(長歌)

1840 : 梅が枝に鳴きて移ろふ鴬の羽白妙に沫雪ぞ降る

1859 : 馬並めて多賀の山辺を白栲ににほはしたるは梅の花かも

2023 : さ寝そめていくだもあらねば白栲の帯乞ふべしや恋も過ぎねば

2027 : 我がためと織女のそのやどに織る白栲は織りてけむかも

2028 : 君に逢はず久しき時ゆ織る服の白栲衣垢付くまでに

2192 : 我が背子が白栲衣行き触ればにほひぬべくももみつ山かも

2321 : 淡雪は今日はな降りそ白栲の袖まき干さむ人もあらなくに

2411 : 白栲の袖をはつはつ見しからにかかる恋をも我れはするかも

2518 : 我妹子が我れを送ると白栲の袖漬つまでに泣きし思ほゆ

2608 : 妹が袖別れし日より白栲の衣片敷き恋ひつつぞ寝る

2609 : 白栲の袖はまゆひぬ我妹子が家のあたりをやまず振りしに

2612 : 白栲の袖触れてし夜我が背子に我が恋ふらくはやむ時もなし

2688 : 待ちかねて内には入らじ白栲の我が衣手に露は置きぬとも

2690 : 白栲の我が衣手に露は置き妹は逢はさずたゆたひにして

2807 : 明けぬべく千鳥しば鳴く白栲の君が手枕いまだ飽かなくに

2812 : 我妹子に恋ひてすべなみ白栲の袖返ししは夢に見えきや

2846 : 夜も寝ず安くもあらず白栲の衣は脱かじ直に逢ふまでに

2854 : 白栲の我が紐の緒の絶えぬ間に恋結びせむ逢はぬ日までに

2937 : 白栲の袖折り返し恋ふればか妹が姿の夢にし見ゆる

2952 : 我が命の衰へぬれば白栲の袖のなれにし君をしぞ思ふ

2953 : 君に恋ひ我が泣く涙白栲の袖さへ漬ちてせむすべもなし

2954 : 今よりは逢はじとすれや白栲の我が衣手の干る時もなき

2962 : 白栲の袖離れて寝るぬばたまの今夜は早も明けば明けなむ

3123 : ただひとり寝れど寝かねて白栲の袖を笠に着濡れつつぞ来し

3181 : 白栲の君が下紐我れさへに今日結びてな逢はむ日のため

3182 : 白妙の袖の別れは惜しけども思ひ乱れて許しつるかも

3215 : 白妙の袖の別れを難みして荒津の浜に宿りするかも

3243 : 娘子らが麻笥に垂れたる続麻なす.......(長歌).......白栲の袖振る見えつ相思ふらしも

3258 : あらたまの年は来ゆきて玉梓の使の来ねば .......(長歌).......白栲の我が衣手も通りて濡れぬ

3274 : 為むすべのたづきを知らに岩が根の.......白栲我が衣手を折り返し.......(長歌)

3324 : かけまくもあやに畏し藤原の .......白栲に飾りまつりて.......(長歌)

3449 : 白栲の衣の袖を麻久良我よ海人漕ぎ来見ゆ波立つなゆめ

3625 : 夕されば葦辺に騒き明け来れば........白栲の羽さし交へて.......(長歌)

3725 : 我が背子しけだし罷らば白栲の袖を振らさね見つつ偲はむ

3751 : 白栲の我が下衣失はず持てれ我が背子直に逢ふまでに

3778 : 白栲の我が衣手を取り持ちて斎へ我が背子直に逢ふまでに

3945 : 秋の夜は暁寒し白栲の妹が衣手着むよしもがも

3973 : 大君の命畏みあしひきの.......白栲の袖折り返し紅の赤裳裾引き.......(長歌)

3993 : 藤波は咲きて散りにき卯の花は.......白栲の袖振り返し.......(長歌)

4111 : かけまくもあやに畏し天皇の.......白栲の袖にも扱入れ .......(長歌)

4331 : 大君の遠の朝廷としらぬひ.......白栲の袖折り返し.......(長歌)

4408 : 大君の任けのまにまに島守に.......白栲の袖泣き濡らし.......(長歌)


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