原文

奈麻余美乃 甲斐乃國 打縁流 駿河能國与 己知其智乃 國之三中従 出立有 不盡能高嶺者 天雲毛 伊去波伐加利 飛鳥母 翔毛不上 燎火乎 雪以滅 落雪乎 火用消通都 言不得 名不知 霊母 座神香聞 石花海跡 名付而有毛 彼山之 堤有海曽 不盡河跡 人乃渡毛 其山之 水乃當焉 日本之 山跡國乃 鎮十方 座祇可間 寳十方 成有山可聞 駿河有 不盡能高峯者 雖見不飽香聞

作者

高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)

よみ

なまよみの甲斐(かひ)の国、うち寄する駿河(するが)の国と、こちごちの国のみ中ゆ、出で立てる、富士の高嶺は、天雲(あまくも)も、い行きはばかり、飛ぶも飛びも上らず、燃ゆるもち消ち、降るもち消ちつつ、言ひも得ず、名付けも知らず、くすしくも、います神かも、せの海と名付けてあるも、その山のつつめる海ぞ、富士川と人の渡るも、その山の水のたぎちぞ、日の本の大和の国の鎮めとも、います神かも、宝ともなれる山かも、駿河なる富士の高嶺は見れど飽かぬかも

意味

撮影 by 佐藤様

甲斐の国、駿河の国に渡って立っている富士山は、も行く手をはばまれ、も上ってゆくことができず、(噴火で)燃えるで消し、降るで消してしまいます。言葉ではいいつくせないほど神秘的な神の山です。せの海と名付けてある湖も、富士山がつつんでいます。富士川も、その源は富士の山です。日本を鎮めていらっしゃる神の山、宝の山なのです。駿河の国の富士の高嶺は、どんなに見ていても飽きることがありません。

- Mt.Fuji is standing in the country of Kai and the country of Suruga. Even the clouds are afraid to pass the mountain, birds can not go up, extinguishes the blazing fire of the eruption with snow, and fires of the mountain erase the falling snow. It is the mountain of mysterious God that can not be described in any words. The lake Se-no-Umi is also enveloped by Mt.Fuji. The river source of Fujikawa is Mt.Fuji. It is a mountain of God, a mountain of treasure, which has calmed Japan. Ridge of Mt.Fuji's in the Suruga country is never getting bored no matter how I look at it.

補足

・富士山を称える長歌です。このあとに反歌(320番歌:富士の嶺に降り置く雪は・・・・・, 321番歌:富士の嶺を高み畏み天雲も・・・・・)が続いています。

せの海: 西暦864年の噴火で、西湖(さいこ)・精進湖(しょうじこ)に分かれています。

更新日: 2019年06月23日(日)