原文
物能乃敷能 夜蘇等母乃乎能 於毛布度知 許己呂也良武等 宇麻奈米C 宇知久知夫利乃 之良奈美能 安里蘇尓与須流 之夫多尓能 佐吉多母登保理 麻都太要能 奈我波麻須義C 宇奈比河波 伎欲吉勢其等尓 宇加波多知 可由吉加久遊岐 見都礼騰母 曽許母安加尓等 布勢能宇弥尓 布祢宇氣須恵C 於伎敝許藝 邊尓己伎見礼婆 奈藝左尓波 安遅牟良佐和伎 之麻<未>尓波 許奴礼波奈左吉 許己婆久毛 見乃佐夜氣吉加 多麻久之氣 布多我弥夜麻尓 波布都多能 由伎波和可礼受 安里我欲比 伊夜登之能波尓 於母布度知 可久思安蘇婆牟 異麻母見流其等
作者
よみ
もののふの、八十伴(やそともの)の男の、思ふどち、心(こころ)遣(や)らむと、馬(うま)並(な)めて、うちくちぶりの、白波(しらなみ)の、荒礒(あらそ)に寄する、渋谿(しぶたに)の、崎(さき)た廻(もとほ)り、松田江(まつだえ)の、長浜(ながはま)過ぎて、宇奈比川(うなひがは)、清き瀬ごとに、鵜川立ち、か行きかく行き、見つれども そこも飽かにと、布勢(ふせ)の海に、舟(ふね)浮(う)け据(す)ゑて、沖辺(おきへ)漕(こ)ぎ、辺(へ)に漕(こ)ぎ見れば、渚(なぎさ)には、あぢ群(むら)騒き、島廻(しまみ)には、木末(こぬれ)花咲き、ここばくも、見のさやけきか、玉櫛笥(たまくしげ)、二上山(ふたかみやま)に、延(は)ふ蔦(つた)の、行きは別れず、あり通ひ、いや年のはに、思ふどち、かくし遊ばむ、今も見るごと
意味
朝廷に仕えるたくさんの人たちが、友達同士でリフレッシュしようと、馬を連ねて、白波(しらなみ)が荒磯に寄せる渋谿(しぶたに)の崎(さき)で少し休憩したり、松田江(まつだえ)の長浜(ながはま)を過ぎて宇奈比川(うなひがは)の清らかな瀬で鵜飼いをしたりしながら、あっちへ行ったりこっちへ行ったりして見たけれど、どこもいまひとつで。布勢(ふせ)の海に舟(ふね)を浮かべて、沖に漕ぎ出たり、岸を漕いでみたりすると、渚(なぎさ)には、あぢたちが騒いで、島辺では梢(こずえ)に花が咲いて、こんなにも良い眺めがあるものでしょうか。二上山(ふたかみやま)に延(は)う蔦(つた)のように、行き別れることなく、絶えることなく通って、毎年、友達同士、こうやって遊ぼうよ。いまの私たちのように。
補足
天平19年(西暦747年)4月24日に詠まれた歌です。
この歌の題詞には、「布勢(ふせ)の水海(みずうみ)に遊覧する歌一首、併(あわ)せて短歌 この海は射水(いみず)郡の旧江村(ふるえむら)にある」とあります。