原文

此月者 君将来跡 大舟之 思憑而 何時可登 吾待居者 黄葉之 過行跡 玉梓之 使之云者 螢成 髣髴聞而 大土乎 火穂跡而 立居而 去方毛不知 朝霧乃 思或而 杖不足 八尺乃嘆 々友 記乎無見跡 何所鹿 君之将座跡 天雲乃 行之随尓 所射完乃 行<文>将死跡 思友 道之不知者 獨居而 君尓戀尓 哭耳思所泣

作者

不明(防人(さきもり)の妻)

よみ

散りゆく葉 by 写真AC

この月は 君来まさむと 大船(おほぶね)の 思ひ頼(たの)みて いつしかと 我が待ち居(を)れば 黄葉(もみちば)の 過ぎてい行くと 玉梓(たまづさ)の 使(つかひ)の言へば 蛍(ほたる)なす ほのかに聞きて 大地(おほつち)を ほのほと踏みて 立ちて居(ゐ)て ゆくへも知らず 朝霧(あさぎり)の 思ひ迷(まと)ひて 杖(つゑ)足らず 八尺(やさか)の嘆(なげ)き 嘆けども 験(しるし)をなみと いづくにか 君がまさむと 天雲(あまくも)の 行きのまにまに 射(い)ゆ鹿猪(しし)の 行きも死なむと 思へども 道の知らねば ひとり居て 君に恋ふるに 哭(ね)のみし泣かゆ

意味

悲しみ by 写真AC

今月はあなたが帰ってこられるだろうと、大船に乗った気持ちでいました。いつ戻られるのだろうと待っていると、「黄葉(もみじ)のように、はかなく散ってしまわれた」と使いの人が言うのを、蛍(ほたる)の光のようにうっすらと聞いて、大地を地団太踏んで、立ったり座り込んだりして途方に暮れてしまいました。

(朝霧(あさぎり)のなかにいるように)思い迷い、長い長い溜息をついて嘆いてもどうしようもなくて、あなたはどこにいらっしゃるのかと、あなたの行方を追い(射られた鹿や猪のように)死んでしまおうと思うのですが、どの道かもわかりません。ひとりきりであなたを恋しく想うと声を出して泣けてしまいます。

・(読みやすいように文を分けて記載しました。)

朝霧 by 写真AC

- rough meaning: I was looking forward to your safe return this month. When I was waiting for you to come back, a messenger come and say, "Your husband died like yellow leaves fall off," I heard it as vaguely as the light of a firefly, then I was at a loss as I stepped on the ground and stood and sat down. I'm having heartache with a long, long sigh, and I wonder where you are wandering. I hope to follow your whereabouts and die, but I don't know which way to go. I miss you alone and I can't help to cry aloud. (Her husband had been assigned to Kyushu as a Sakimori guardian. )

補足

・この歌は防人(さきもり)の妻が夫の死の知らせを聞いて、その嘆きを詠んだ歌とされています。

更新日: 2022年06月26日(日)