原文

鴬之 生卵乃中尓 霍公鳥 獨所生而 己父尓 似而者不鳴 己母尓 似而者不鳴 宇能花乃 開有野邊従 飛翻 来鳴令響 橘之 花乎居令散 終日 雖喧聞吉 幣者将為 遐莫去 吾屋戸之 花橘尓 住度鳥

作者

高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)歌集より

よみ

卯の花 撮影(2018.05) by きょう

鴬(うぐひす)の 卵の中に 霍公鳥(ほととぎす) 独り生れて 己(な)が父に 似ては鳴かず 己が母に 似ては鳴かず 卯(う)の花の 咲きたる野辺(のへ)ゆ 飛び翔(かけ)り 来鳴き響(とよ)もし 橘(たちばな)の 花を居(ゐ)散らし ひねもすに 鳴けど聞きよし 賄(まひ)はせむ 遠くな行きそ 我が宿(やど)の 花橘(はなたちばな)に 住みわたれ鳥

意味

鴬(うぐひす)の卵の中に霍公鳥(ほととぎす)がひとり生まれて、父のようには鳴かず、母のようにも鳴かず、卯(う)の花の咲いている野辺を飛びかけて、鳴き響かせ、橘(たちばな)にとまって花を散らし、一日中鳴いているけど、聞き飽きることはありません。お礼をするから遠くには行かずに私の家の花橘(はなたちばな)に住み着いてください、鳥よ。

補足

この歌の題詞には「霍公鳥(ほととぎす)を詠む一首[并(あわ)せて短歌]」とあります。

霍公鳥(ほととぎす)は、卵の世話を鴬(うぐひす)などの他の鳥に托する習性、托卵(たくらん)習性を持つ鳥として知られています。

更新日: 2018年05月20日(日)