原文
鴬之 生卵乃中尓 霍公鳥 獨所生而 己父尓 似而者不鳴 己母尓 似而者不鳴 宇能花乃 開有野邊従 飛翻 来鳴令響 橘之 花乎居令散 終日 雖喧聞吉 幣者将為 遐莫去 吾屋戸之 花橘尓 住度鳥
作者
高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)歌集より
よみ
![卯の花 撮影(2018.05) by きょう](image/m1755.jpg)
鴬(うぐひす)の 卵の中に 霍公鳥(ほととぎす) 独り生れて 己(な)が父に 似ては鳴かず 己が母に 似ては鳴かず 卯(う)の花の 咲きたる野辺(のへ)ゆ 飛び翔(かけ)り 来鳴き響(とよ)もし 橘(たちばな)の 花を居(ゐ)散らし ひねもすに 鳴けど聞きよし 賄(まひ)はせむ 遠くな行きそ 我が宿(やど)の 花橘(はなたちばな)に 住みわたれ鳥
意味
鴬(うぐひす)の卵の中に霍公鳥(ほととぎす)がひとり生まれて、父のようには鳴かず、母のようにも鳴かず、卯(う)の花の咲いている野辺を飛びかけて、鳴き響かせ、橘(たちばな)にとまって花を散らし、一日中鳴いているけど、聞き飽きることはありません。お礼をするから遠くには行かずに私の家の花橘(はなたちばな)に住み着いてください、鳥よ。
補足
この歌の題詞には「霍公鳥(ほととぎす)を詠む一首[并(あわ)せて短歌]」とあります。
・霍公鳥(ほととぎす)は、卵の世話を鴬(うぐひす)などの他の鳥に托する習性、托卵(たくらん)習性を持つ鳥として知られています。