第十九巻 : 桃の花紅色ににほひたる

2000年8月20日(日)更新


原文: 桃花 紅色尓 々保比多流 面輪乃宇知尓 青柳乃 細眉根乎 咲麻我理 朝影見都追 □(女偏に感)嬬良我 手尓取持有 真鏡 盖上山尓 許能久礼乃 繁谿邊乎 呼等余米 旦飛渡 暮月夜 可蘇氣伎野邊 遥々尓 喧霍公鳥 立久久等 羽觸尓知良須 藤浪乃 花奈都可之美 引攀而 袖尓古伎礼都 染婆染等母

作者: 不明

よみ: 桃の花、紅色ににほひたる、面輪(おもわ)のうちに青柳の、細き眉根(まよね)を咲みまがり、朝影見つつ少女らが、手に取り持たる真鏡(まそかがみ)、二上山(ふたかみやま)に木(こ)の暮れの、繁き谷邊(たにべ)を呼びとよめ、朝飛び渡り、夕月夜かそけき野辺に、はろばろに鳴くホトトギス立ちくくと、羽ぶりに散らす藤波の、花なつかしみ引きよぢて、袖にこきれつ染(し)まば染(し)むとも

意味: 桃の花のように紅く輝いている顔に、柳のように細い眉を曲げて微笑んで、朝の少女たちが手に持っている鏡のふた、二上山("ふた"かみやま)の木が繁った谷を、朝には鳴き渡り、夕月夜に消え入るような野原にはるかに鳴いているホトトギスが、飛びくぐって散らしてしまう藤(ふじ)の花をなつかしく思って、ひきちぎって袖に入れてしまいました。袖に藤の色がついてしまうのもかまわずに。


第十九巻