原文
天皇乃 御命畏美 柔備尓之 家乎擇 隠國乃 泊瀬乃川尓 ■浮而 吾行河乃 川隈之 八十阿不落 万段 顧為乍 玉桙乃 道行晩 青丹吉 楢乃京師乃 佐保川尓 伊去至而 我宿有 衣乃上従 朝月夜 清尓見者 栲乃穂尓 夜之霜落 磐床等 川之水凝 冷夜乎 息言無久 通乍 作家尓 千代二手 来座多公与 吾毛通武
作者
不明
よみ
大君(おほきみ)の 命(みこと)畏(かしこ)み 柔(にき)びにし 家を置き こもりくの 泊瀬(はつせ)の川に 舟(ふね)浮けて 我が行く川の 川隈(かはくま)の 八十隈(やそくま)おちず 万(よろづ)たび かへり見しつつ 玉桙(たまほこ)の 道行き暮らし あをによし 奈良の都の 佐保川(さほかは)に い行き至りて 我が寝たる 衣(ころも)の上ゆ 朝月夜(あさづくよ) さやかに見れば 栲(たへ)の穂に 夜の霜(しも)降り 岩床(いはとこ)と 川の水(みづ)凝(こ)り 寒き夜を 息(やす)むことなく 通ひつつ 作れる家に 千代までに 来ませ大君よ 我れも通はむ
・写真は泊瀬(はつせ)の川です。
意味
大君(おほきみ)の命を恐れ多くつつしみ、住み慣れた家を離れて泊瀬(はつせ)の川に舟を浮かべて、私が行く川の曲がりごと、たくさんの曲がりごとに何度も何度も振り返り、道の途中で日が暮れ、奈良の都の佐保川(さほがわ)に着いて、私が寝る衣の上の朝の月(つき)に清らかに見ると、栲(たえ)の穂に夜の霜(しも)が降りて、岩床のように川の水が厚く凍る寒い夜にも、休むことなく通い続けて作った宮に末永くお出でください大君よ、私もここに通って参ります。
- rough meaning: (when the capital moved from Fujiwara to Nara) Because of her Majesty very graciously ordered, I left my home. I float a ship on the river of Hatsusegawa, every turn of the river I go, every turn I look back again and again, get to the sun on the way, arrive at the Sahogawa in the capital of Nara. I look in the morning moon over the clothes while half asleep. On a cold night when the night frost gets down on the ear of the paper mulberry and the river water becomes thick, I have been keep going and building the new palace. Please live your majesty on forever new palace, I will go there many times.
補足
この歌の題詞には、「或(あ)る本に、藤原京より寧樂宮(ならのみや)に遷(うつ)る時の歌」とあります。この時の大君(天皇のこと)は、元明天皇です。