原文

嶋山乎 射徃廻流 河副乃 丘邊道従 昨日己曽 吾超来壮鹿 一夜耳 宿有之柄二 峯上之 櫻花者 瀧之瀬従 落堕而流 君之将見 其日左右庭 山下之 風莫吹登 打越而 名二負有社尓 風祭為奈

作者

高橋連蟲麻呂(たかはしのむらじむしまろ)歌集より

よみ

よみ: 島山を い行き廻(めぐ)れる 川沿ひの 岡辺(をかへ)の道ゆ 昨日こそ 我が越え来しか 一夜(ひとよ)のみ 寝たりしからに 峰(を)の上の 桜の花は 瀧(たき)の瀬ゆ 散らひて流る 君が見む その日までには 山おろしの 風(かぜ)な吹きそと うち越えて 名に負へる杜(もり)に 風祭(かざまつり)せな

意味

桜 by 写真AC

意味: 島山を行き廻っている川沿いの岡辺の道を、昨日私が越えて来ましたが、一夜寝ただけなのに、峰の上の桜の花は、流れの速い瀬を散った花びらが流れています。あなた様(藤原宇合:ふじわらのうまかい)がご覧になるその日までは山おろしの風よ吹くなと、(龍田の道を)越えて、風の神の名を負う(龍田の)社で風祭(かざまつり)をしましょう。

・「島山(しまやま)」は、川などに囲まれてまるで島のように見える山のことをいいます。

・「風祭り」は、収穫前の農作物が台風などの被害に遭わないよう、風の神に祈願する祭です。

- rough meaning: I crossed the Okabe-no-Michi along the river that goes by Shimayama(a mountain that looks like an island surrounded by rivers) yesterday, but even though I only slept overnight, the cherry blossoms on the peak are filled with petals scattered in the fast-flowing waters. Until the day when you(Fujiwara-no-Umakai) see it, I will cross the road of Tatsuta and hold a Kazamatsuri(a festival to pray to the god of the wind so that pre-harvest crops will not be damaged by typhoons.) at the shrine of Tatsuta, which bears the name of the god of the wind.

補足

・この歌の題詞には、「難波(なにわ)に經宿(やど:一晩の宿泊)りて明日(くるつひ:翌日)還(かへ)り来る時の歌一首[并(あわ)せて短歌]」とあります。

難波(なにわ)から平城京(ならのみやこ)に戻る際に、散り始めている桜を見て「難波にいる藤原宇合(ふじわらのうまかい)が都に戻るまで桜が散らないでほしい」と、風の神にお祈りする気持ちを詠んでいます。

更新日: 2021年03月28日(日)