原文
妹毛吾毛 許己呂波於夜自 多具敝礼登 伊夜奈都可之久 相見婆 登許波都波奈尓 情具之 眼具之毛奈之尓 波思家夜之 安我於久豆麻
大王能 美許登加之古美 阿之比奇能 夜麻古要奴由伎 安麻射加流 比奈乎左米尓等 別来之 曽乃日乃伎波美 荒璞能 登之由吉我敝利 春花乃 宇都呂布麻泥尓 相見祢婆 伊多母須敝奈美 之伎多倍能 蘇泥可敝之都追 宿夜於知受
伊米尓波見礼登 宇都追尓之 多太尓安良祢婆 孤悲之家口 知敝尓都母里奴 近在者 加敝利尓太仁母 宇知由吉氐 妹我多麻久良 佐之加倍氐 祢天蒙許万思乎 多麻保己乃 路波之騰保久 關左閇尓 敝奈里氐安礼許曽 与思恵夜之 餘志播安良武曽
霍公鳥 来鳴牟都奇尓 伊都之加母 波夜久奈里那牟 宇乃花能 尓保敝流山乎 余曽能未母 布里佐氣見都追 淡海路尓 伊由伎能里多知 青丹吉 奈良乃吾家尓 奴要鳥能 宇良奈氣之都追 思多戀尓 於毛比宇良夫礼 可度尓多知 由布氣刀比都追 吾乎麻都等 奈須良牟妹乎 安比氐早見牟
作者
よみ
妹(いも)も我(あ)れも 心は同じ たぐへれど いやなつかしく 相(あひ)見れば 常初花(とこはつはな)に 心ぐし めぐしもなしに はしけやし 我(あ)が奥妻(おくづま)
大君(おほきみ)の 命(みこと)畏(かしこ)み あしひきの 山越え野行き 天離(あまざか)る 鄙(ひな)治(をさ)めにと 別れ来(こ)し その日の極(きは)み あらたまの 年行き返り 春花(はるはな)の うつろふまでに 相見ねば いたもすべなみ 敷栲(しきたへ)の 袖(そで)返しつつ 寝る夜おちず
夢(いめ)には見れど うつつにし 直(ただ)にあらねば 恋しけく 千重(ちへ)に積もりぬ 近くあらば 帰りにだにも うち行きて 妹が手枕(たまくら) さし交(か)へて 寝ても来ましを 玉桙(たまほこ)の 道はし遠く 関(せき)さへに へなりてあれこそ よしゑやし よしはあらむぞ
霍公鳥(ほととぎす) 来(き)鳴かむ月(つき)に いつしかも 早くなりなむ 卯(う)の花の にほへる山を よそのみも 振り放(さ)け見つつ 近江道(あふみぢ)に い行き乗り立ち あをによし 奈良(なら)の我家(わぎへ)に ぬえ鳥の うら泣けしつつ 下恋(したごひ)に 思ひうらぶれ 門(かど)に立ち 夕占(ゆふけ)問ひつつ 我(わ)を待つと 寝すらむ妹(いも)を 逢ひてはや見む
意味
妻も私も思いは同じです。寄り添っていても、ますます愛おしく、顔を見あえば、いつも咲いたばかりの花(はな)のようで、つらいことも心苦しいこともなく、愛しい私の妻。
大君の仰せを恐れ謹んで、山を越え野を行き、都から遠く離れたひなびたこの地を治めようと、君と別れてきたその日から、年が改まり、春(はる)の花の散る頃までも逢えないので、どうすることもできず、いつも袖を折り返して寝ています。
夢(ゆめ)には見るけれど、本当に君に逢えるのではないので、恋しさが幾重にも積もるばかりです。近くにいたなら、ちょっと帰って君と手枕(てまくら)をさし交わし寝ても来るのに、(都への)道ははるか遠く、関所で隔てられています。あぁ、どうしようもないことか。いや、なにかあるはず。
霍公鳥(ほととぎす)が来て鳴く頃の月(四月)に早くならないでしょうか。卯(う)の花の咲く山を遠く見て、近江道に行き、奈良のわが家でぬえ鳥のように泣き、恋慕って、門に立って占い師に占ってもらったりして、(私を待ちながら)一人で寝ている君に早く逢いたいのです。
- rough meaning: My wife and I have the same feelings each other. Even though I'm snuggling up, I'm more and more loving, and when we look each other, you're like a flower that has just bloomed, and I can overcome hardships without any pain, my dear wife.
Upon the Emperor's order, I went over the mountains, over the fields, and tried to rule over this craggy land, far from the city. From the day I parted with you, I can't meet you until the year changed and the spring flowers will fall. I can't do anything, and I always fold my sleeves and sleep.
Even when I dream about you, I can't really meet you, so I just miss you. If you were close, you could come home and sleep with hand pillows. The road to the city is far away, separated by the barrier. Ah, it can't be helped. No, there should be something means to meet you.
I hope if the early in the month (April) around the time when the Hototogisu come and sing will come soon? Looking at the mountain where Unohana bloom from afar, going to Omi-ji(Omi road). You might be crying like a thrush at my home in Nara longing for love, be asking a fortune teller to read about me, and sleeping alone. I want to see you soon.
補足
この歌の題詞には、「戀(こい)の緒(こころ)を述べる歌一首[あわせて短歌]」とあります。
この歌の短歌の左注には、「右三月廿日(20日)夜裏(よのうち:夜中)、忽(たちま)ちに戀情(れんじょう)を起こして作る。 大伴宿祢家持(おおとものすくねやかもち)」とあります。