第十七巻 : 藤波は咲きて散りにき卯の花は今ぞ盛りと

2008年04月20日(日)更新


原文: 布治奈美波 佐岐弖知理尓伎 宇能波奈波 伊麻曽佐可理等 安之比奇能 夜麻尓毛野尓毛 保登等藝須 奈伎之等与米婆 宇知奈妣久 許己呂毛之努尓 曽己乎之母 宇良胡非之美等 於毛布度知 宇麻宇知牟礼弖 多豆佐波理 伊泥多知美礼婆 伊美豆河泊 美奈刀能須登利 安佐奈藝尓 可多尓安佐里之 思保美弖婆 都麻欲妣可波須 等母之伎尓 美都追須疑由伎 之夫多尓能 安利蘇乃佐伎尓 於枳追奈美 余勢久流多麻母 可多与理尓 可都良尓都久理 伊毛我多米 ■尓麻吉母知弖 宇良具波之 布勢能美豆宇弥尓 阿麻夫祢尓 麻可治加伊奴吉 之路多倍能 蘇泥布理可邊之 阿登毛比弖 和賀己藝由氣婆 乎布能佐伎 波奈知利麻我比 奈伎佐尓波 阿之賀毛佐和伎 佐射礼奈美 多知弖毛為弖母 己藝米具利 美礼登母安可受 安伎佐良婆 毛美知能等伎尓 波流佐良婆 波奈能佐可利尓 可毛加久母 伎美我麻尓麻等 可久之許曽 美母安吉良米々 多由流比安良米也

作者: 大伴池主(おおとものいけぬし)

よみ: 藤波(ふぢなみ)は、咲きて散りにき、卯(う)の花は、今ぞ盛りと、あしひきの、山にも野にも、霍公鳥(ほととぎす)、鳴きし響(とよ)めば、うち靡(なび)く、心もしのに、そこをしも、うら恋しみと、思ふどち、馬打ち群れて、携(たづさ)はり、出で立ち見れば、射水川(いみづがは)、港の渚鳥(すどり)、朝なぎに、潟(かた)にあさりし、潮(しほ)満(み)てば、夫呼び交す、羨(とも)しきに、見つつ過ぎ行き、渋谿(しぶたに)の、荒礒(ありそ)の崎に、沖つ波、寄せ来る玉藻(たまも)、片縒(かたよ)りに、蘰(かづら)に作り、妹(いも)がため、手に巻き持ちて、うらぐはし、布勢(ふせ)の水海(みづうみ)に、海人船(あまぶね)に、ま楫(かぢ)掻(か)い貫(ぬ)き、白栲(しろたへ)の、袖(そで)振り返し、あどもひて、我が漕(こ)ぎ行けば、乎布(をふ)の崎、花散りまがひ、渚(なぎさ)には、葦鴨(あしがも)騒き、さざれ波、立ちても居(ゐ)ても、漕(こ)ぎ廻り、見れども飽かず、

秋(あき)さらば、黄葉(もみち)の時に、春(はる)さらば、春(はる)の盛りに、かもかくも、君がまにまと、かくしこそ、見も明らめめ、絶ゆる日あらめや

意味: 藤(ふじ)は咲きて散り、卯(う)の花は今を盛りと咲き誇り、山にも野にも霍公鳥(ほととぎす)が鳴くと、気持ちがひかれて、それが気になって親しい友と仲良く馬を連ねて見に行ってみると、射水川(いみづがわ)の河口にいる鳥が朝なぎに潟(かた)で餌をとり、潮が満ちると夫婦で呼び合います。心ひかれますが、過ぎ行きて、渋谿(しぶたに)の荒礒(ありそ)の崎で波が寄せてくるところで玉藻(たまも)を拾って、蘰(かづら)にし、あの女(ひと)のために手に巻き持って、美しい布勢(ふせ)の湖で海人船(あまぶね)に梶(かじ)をつけて、袖を振り返して掛け声をかけて漕いでゆくと、乎布(をふ)の崎には花が散り乱れて、渚(なぎさ)には葦鴨(あしがも)が騒いでいて、ずっと漕いでいても見飽きることがありません。

撮影(2008.03) by きょう

秋(あき)がきたら黄葉(もみち)の頃に、春(はる)がきたら花(はな)の盛りに、とにもかくにも、あなた様にお従いして、こうして見ることで気を晴らします。絶えることなく。

天平19年(西暦747年)4月26日に大伴家持が詠んだ「布勢水海(ふせのみずうみ)に遊覧(ゆうらん)する歌」に唱和した歌です。布勢水海(ふせのみずうみ)は、当時、(現在の)富山県氷見市にあった湖で、いまは存在していません。


第十七巻