空蝉(うつせみ)の
空蝉(うつせみ)とは、「この世・この世の人」のことです。「現(うつ)し臣(おみ)」、つまりこの世の人ということから、「うつせみ」と変化したという説などさまざまあって、はっきりとはしていません。万葉集では、空蝉・虚蝉・打蝉などと表記されます。この世の中に身をおく人間は蝉のぬけがらのように仮のもので、はかないものだという感じもあったのかもしれません。
「空蝉(うつせみ)の」を詠んだ歌
万葉集の歌の中では、挽歌や相聞歌に詠みこまれています。特に、大伴家持(おおとものやかもち)の歌が多いのが特徴的です。「うつそみ」という表現も見られます。「うつせみの・うつそみの」で、「人・世」などを導く枕詞としても使われます。
0013: 香具山は畝傍を愛しと耳成と相争ひき.......(長歌)
0024: うつせみの命を惜しみ波に濡れ伊良虞の島の玉藻刈り食む
0150: うつせみし神に堪へねば離れ居て朝嘆く君.......(長歌)
0165: うつそみの人にある我れや明日よりは二上山を弟背と我が見む
0196: 飛ぶ鳥の明日香の川の上つ瀬に石橋渡し.......(長歌)
0199: かけまくもゆゆしきかも言はまくもあやに畏き.......(長歌)
0210: うつせみと思ひし時に取り持ちて我がふたり見し.......(長歌)
0213: うつそみと思ひし時にたづさはり我がふたり見し.......(長歌)
0443: 天雲の向伏す国のますらをと言はれし人は天皇の.......(長歌)
0465: うつせみの世は常なしと知るものを秋風寒み偲ひつるかも
0466: 我がやどに花ぞ咲きたるそを見れど心もゆかず.......(長歌)
0482: うつせみの世のことにあれば外に見し山をや今はよすかと思はむ
0597: うつせみの人目を繁み石橋の間近き君に恋ひわたるかも
0619: おしてる難波の菅のねもころに君が聞こして.......(長歌)
0729: 玉ならば手にも巻かむをうつせみの世の人なれば手に巻きかたし
0733: うつせみの世やも二行く何すとか妹に逢はずて我がひとり寝む
1453: 玉たすき懸けぬ時なく息の緒に我が思ふ君は.......(長歌)
1629: ねもころに物を思へば言はむすべ為むすべもなし.......(長歌)
1785: 人となることはかたきをわくらばに.......(長歌)
1787: うつせみの世の人なれば大君の命畏み.......(長歌)
1857: 年のはに梅は咲けどもうつせみの世の人我れし春なかりけり
2642: 燈火の影にかがよふうつせみの妹が笑まひし面影に見ゆ
2932: 心には燃えて思へどうつせみの人目を繁み妹に逢はぬかも
2960: うつせみの現し心も我れはなし妹を相見ずて年の経ぬれば
2961: うつせみの常のことばと思へども継ぎてし聞けば心惑ひぬ
3107: うつせみの人目を繁み逢はずして年の経ぬれば生けりともなし
3108: うつせみの人目繁くはぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ
3292: うつせみの命を長くありこそと留まれる我れは斎ひて待たむ
3332: 高山と海とこそば山ながら・・・人は花ものぞうつせみ世人
3456: うつせみの八十言のへは繁くとも争ひかねて我を言なすな
3962: 大君の任けのまにまに大夫の心振り起し.......(長歌)
4106: 大汝少彦名の神代より言ひ継ぎけらく.......(長歌)
4125: 天照らす神の御代より安の川中に隔てて.......(長歌)
4160: 天地の遠き初めよ世間は常なきものと.......(長歌)
4162: うつせみの常なき見れば世の中に心つけずて思ふ日ぞ多き
4185: うつせみは恋を繁みと春まけて思ひ繁けば.......(長歌)
4189: 天離る鄙としあればそこここも同じ心ぞ.......(長歌)
4211: 古にありけるわざのくすばしき.......(長歌)
4214: 天地の初めの時ゆうつそみの八十伴の男は.......(長歌)
4220: 海神の神の命のみ櫛笥に貯ひ置きて.......(長歌)
4408: 大君の任けのまにまに島守に我が立ち来れば.......(長歌)
4468: うつせみは数なき身なり山川のさやけき見つつ道を尋ねな