原文
毎時尓 伊夜目都良之久 八千種尓 草木花左伎 喧鳥乃 音毛更布 耳尓聞 眼尓視其等尓 宇知嘆 之奈要宇良夫礼 之努比都追 有争波之尓 許能久礼能 四月之立者 欲其母理尓 鳴霍公鳥 従古昔 可多里都藝都流 鴬之 宇都之真子可母
菖蒲 花橘乎 ■(女+感)嬬良我 珠貫麻泥尓 赤根刺 晝波之賣良尓 安之比奇乃 八丘飛超 夜干玉乃 夜者須我良尓 暁 月尓向而 徃還 喧等余牟礼杼 何如将飽足
作者
よみ
時ごとに、いやめづらしく、八千種(やちくさ)に、草木花咲き、鳴く鳥の、声も変らふ、耳に聞き、目に見るごとに、うち嘆()き、萎(しな)えうらぶれ、偲(しの)ひつつ、争ふはしに、木(こ)の暗(くれ)の、四月(うづき)し立てば、夜隠(よごも)りに、鳴く霍公鳥(ほととぎす)、いにしへゆ、語り継ぎつる、鴬(うぐひす)の、現(うつ)し真子(まこ)かも
あやめぐさ、花橘(はなたちばな)を、娘子(をとめ)らが、玉貫(たまぬ)くまでに、あかねさす、昼はしめらに、あしひきの、八つ峰飛び越え、ぬばたまの、夜はすがらに、暁(あかとき)の、月に向ひて、行き帰り、鳴き響(とよ)むれど、なにか飽き足らむ
意味
四季ごとにますます色々な草木が花咲き、鳴く鳥の声も変わっていきます。耳に聞き、目に見るたびに心を奪われ、どれがいいかと思っていると、木の暗いところは四月になると、夜が更けてから鳴く霍公鳥(ほととぎす)は、昔からの言い伝えにあるように鴬(うぐひす)が育てた愛しい子なのかも。
あやめぐさ、花橘(はなたちばな)を少女たちが玉に貫く(五月の端午の節句)まで、昼はずっと山の峰峰を飛び越えて、夜はずっと暁の月に向かって行き来し、鳴き響きますが、どうして飽きることがありましょう。
補足
この歌の題詞には、「霍公鳥(ほととぎす)と時の花を詠む歌一首[并(あは)せて短歌]」とあります。