雁(かり/がん) Kari/Gan(Wild Goose)
カモ目カモ科ガン亜科の水鳥の総称です。通常、鴨より大きいです。雁は万葉の頃は「かり」と呼ばれていましたが、室町時代あたりから少しずつ「がん」という呼び方が始まったとのことです。
- Kari(Wild Goose) is a general term for waterfowl of the subfamily Anserinae. Usually larger than a duck. Goose was called "Kari" in the days of Manyo, but it is said that the name "Gan" began to be used gradually from around the Muromachi period.
雁(かり/がん)を詠んだ歌 Poems including Kari
万葉集には「雁(かり)が音(ね)」と詠まれた歌が非常に多くあります。「雁(かり)が音(ね)」は「雁の鳴く声」の意味ですが、「雁」そのものの意味にも使われています。
- "Kari-ga-ne" which is sung in some poems, means the sound of a wild goose's cry, but it is also used to mean "Kari" itself.
0182: 鳥座立て飼ひし雁の子巣立ちなば真弓の岡に飛び帰り来ね
0948: ま葛延ふ春日の山はうち靡く春さりゆくと山の上に.......(長歌)
0954: 朝は海辺にあさりし夕されば大和へ越ゆる雁し羨しも
1161: 家離り旅にしあれば秋風の寒き夕に雁鳴き渡る
1513: 今朝の朝明雁が音聞きつ春日山もみちにけらし我が心痛し
1515: 言繁き里に住まずは今朝鳴きし雁にたぐひて行かましものを
1539: 秋の田の穂田を雁がね暗けくに夜のほどろにも鳴き渡るかも
1540: 今朝の朝明雁が音寒く聞きしなへ野辺の浅茅ぞ色づきにける
1556: 秋田刈る仮廬もいまだ壊たねば雁が音寒し霜も置きぬがに
1562: 誰れ聞きつこゆ鳴き渡る雁がねの妻呼ぶ声の羨しくもあるか
1563: 聞きつやと妹が問はせる雁が音はまことも遠く雲隠るなり
1566: 久方の雨間も置かず雲隠り鳴きぞ行くなる早稲田雁がね
1567: 雲隠り鳴くなる雁の行きて居む秋田の穂立繁くし思ほゆ
1574: 雲の上に鳴くなる雁の遠けども君に逢はむとた廻り来つ
1575: 雲の上に鳴きつる雁の寒きなへ萩の下葉はもみちぬるかも
1578: 今朝鳴きて行きし雁が音寒みかもこの野の浅茅色づきにける
1614: 九月のその初雁の使にも思ふ心は聞こえ来ぬかも
1699: 巨椋の入江響むなり射目人の伏見が田居に雁渡るらし
1700: 秋風に山吹の瀬の鳴るなへに天雲翔る雁に逢へるかも
1701: さ夜中と夜は更けぬらし雁が音の聞こゆる空ゆ月渡る見ゆ
1702: 妹があたり繁き雁が音夕霧に来鳴きて過ぎぬすべなきまでに
1703: 雲隠り雁鳴く時は秋山の黄葉片待つ時は過ぐれど
1708: 春草を馬咋山ゆ越え来なる雁の使は宿り過ぐなり
1757: 草枕旅の憂へを慰もることもありやと.......(長歌)
2097: 雁がねの来鳴かむ日まで見つつあらむこの萩原に雨な降りそね
2126: 秋萩は雁に逢はじと言へればか声を聞きては花に散りぬる
2128: 秋風に大和へ越ゆる雁がねはいや遠ざかる雲隠りつつ
2129: 明け暮れの朝霧隠り鳴きて行く雁は我が恋妹に告げこそ
2130: 我が宿に鳴きし雁がね雲の上に今夜鳴くなり国へかも行く
2131: さを鹿の妻どふ時に月をよみ雁が音聞こゆ今し来らしも
2132: 天雲の外に雁が音聞きしよりはだれ霜降り寒しこの夜は
2133: 秋の田の我が刈りばかの過ぎぬれば雁が音聞こゆ冬かたまけて
2134: 葦辺なる荻の葉さやぎ秋風の吹き来るなへに雁鳴き渡る
2135: おしてる難波堀江の葦辺には雁寝たるかも霜の降らくに
2136: 秋風に山飛び越ゆる雁がねの声遠ざかる雲隠るらし
2137: 朝に行く雁の鳴く音は我がごとく物思へれかも声の悲しき
2138: 鶴がねの今朝鳴くなへに雁がねはいづくさしてか雲隠るらむ
2139: ぬばたまの夜渡る雁はおほほしく幾夜を経てかおのが名を告る
2144: 雁は来ぬ萩は散りぬとさを鹿の鳴くなる声もうらぶれにけり
2181: 雁が音の寒き朝明の露ならし春日の山をもみたすものは
2183: 雁がねは今は来鳴きぬ我が待ちし黄葉早継げ待たば苦しも
2191: 雁が音を聞きつるなへに高松の野の上の草ぞ色づきにける
2194: 雁がねの来鳴きしなへに韓衣龍田の山はもみちそめたり
2195: 雁がねの声聞くなへに明日よりは春日の山はもみちそめなむ
2208: 雁がねの寒く鳴きしゆ水茎の岡の葛葉は色づきにけり
2212: 雁がねの寒く鳴きしゆ春日なる御笠の山は色づきにけり
2214: 夕されば雁の越え行く龍田山しぐれに競ひ色づきにけり
2224: この夜らはさ夜更けぬらし雁が音の聞こゆる空ゆ月立ち渡る
2238: 天飛ぶや雁の翼の覆ひ羽のいづく漏りてか霜の降りけむ
2266: 出でて去なば天飛ぶ雁の泣きぬべみ今日今日と言ふに年ぞ経にける
2276: 雁がねの初声聞きて咲き出たる宿の秋萩見に来我が背子
2294: 秋されば雁飛び越ゆる龍田山立ちても居ても君をしぞ思ふ
3048: み狩りする雁羽の小野の櫟柴のなれはまさらず恋こそまされ
3223: かむとけの日香空の九月のしぐれの降れば.......(長歌)
3281: 我が背子は待てど来まさず雁が音も.......(長歌)
3345: 葦辺行く雁の翼を見るごとに君が帯ばしし投矢し思ほゆ
3665: 妹を思ひ寐の寝らえぬに暁の朝霧隠り雁がねぞ鳴く
3676: 天飛ぶや雁を使に得てしかも奈良の都に言告げ遣らむ
3691: 天地とともにもがもと思ひつつありけむものを.......(長歌)
3947: 今朝の朝明秋風寒し遠つ人雁が来鳴かむ時近みかも
3953: 雁がねは使ひに来むと騒くらむ秋風寒みその川の上に
4144: 燕来る時になりぬと雁がねは国偲ひつつ雲隠り鳴く
4145: 春まけてかく帰るとも秋風にもみたむ山を越え来ざらめや [一云 春されば帰るこの雁]
4224: 朝霧のたなびく田居に鳴く雁を留め得むかも我が宿の萩
4296: 天雲に雁ぞ鳴くなる高円の萩の下葉はもみちあへむかも
4366: 常陸指し行かむ雁もが我が恋を記して付けて妹に知らせむ