イラスト by 名倉エリさま

人がうわさすることを「人言(ひとごと)」と言いました。「人のうわさがうるさくて辛い」という意味の「人言(ひとごと)を繁(しげ)み言痛(こちた)み」という言葉がよく歌にでてきます。

好きな人とのことを、あれこれ他人にうわさされるのは、やはり嫌なことで、恋を邪魔するものだったことが非常に多くの歌からわかります。人に知られないように気を遣っていたことがうかがえる歌もありますね。

- It's unpleasant to be rumored by others about someone you like. Some poems show that rumors of love is a hindrance to love. There are many poems that show people were careful not to be known their love to other people.

0150: うつせみし神に堪へねば離れ居て朝嘆く君.......(長歌)

0116: 人言を繁み言痛みおのが世にいまだ渡らぬ朝川渡る

0512: 秋の田の穂田の刈りばかか寄りあはばそこもか人の我を言成さむ

0538: 人言を繁み言痛み逢はずありき心あるごとな思ひ我が背子

0539: 我が背子し遂げむと言はば人言は繁くありとも出でて逢はましを

0541: この世には人言繁し来む世にも逢はむ我が背子今ならずとも

0565: 大伴の見つとは言はじあかねさし照れる月夜に直に逢へりとも

0590: あらたまの年の経ぬれば今しはとゆめよ我が背子我が名告らすな

0591: 我が思ひを人に知るれか玉櫛笥開きあけつと夢にし見ゆる

0616: 剣太刀名の惜しけくも我れはなし君に逢はずて年の経ぬれば

0626: 君により言の繁きを故郷の明日香の川にみそぎしに行く

0630: 初花の散るべきものを人言の繁きによりてよどむころかも

0647: 心には忘るる日なく思へども人の言こそ繁き君にあれ

0659: あらかじめ人言繁しかくしあらばしゑや我が背子奥もいかにあらめ

0660: 汝をと我を人ぞ離くなるいで我が君人の中言聞きこすなゆめ

0669: あしひきの山橘の色に出でよ語らひ継ぎて逢ふこともあらむ

0680: けだしくも人の中言聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ

0683: 言ふ言の畏き国ぞ紅の色にな出でそ思ひ死ぬとも

0685: 人言を繁みか君が二鞘の家を隔てて恋ひつつまさむ

0688: 青山を横ぎる雲のいちしろく我れと笑まして人に知らゆな

0713: 垣ほなす人言聞きて我が背子が心たゆたひ逢はぬこのころ

0730: 逢はむ夜はいつもあらむを何すとかその宵逢ひて言の繁きも

0731: 我が名はも千名の五百名に立ちぬとも君が名立たば惜しみこそ泣け

0732: 今しはし名の惜しけくも我れはなし妹によりては千たび立つとも

0748: 恋ひ死なむそこも同じぞ何せむに人目人言言痛み我がせむ

0752: かくばかり面影にのみ思ほえばいかにかもせむ人目繁くて

0788: うら若み花咲きかたき梅を植ゑて人の言繁み思ひぞ我がする

0790: 春風の音にし出なばありさりて今ならずとも君がまにまに

1313: 紅の深染めの衣下に着て上に取り着ば言なさむかも

1329: 陸奥の安達太良真弓弦はけて引かばか人の我を言なさむ

1330: 南淵の細川山に立つ檀弓束巻くまで人に知らえじ

1343: 言痛くはかもかもせむを岩代の野辺の下草我れし刈りてば

1366: 明日香川七瀬の淀に住む鳥も心あれこそ波立てざらめ

1370: はなはだも降らぬ雨故にはたづみいたくな行きそ人の知るべく

1376: 大和の宇陀の真埴のさ丹付かばそこもか人の我を言なさむ

1377: 木綿懸けて祭る三諸の神さびて斎むにはあらず人目多みこそ

1379: 絶えず行く明日香の川の淀めらば故しもあるごと人の見まくに

1383: 嘆きせば人知りぬべみ山川のたぎつ心を塞かへてあるかも

1388: 石そそき岸の浦廻に寄する波辺に来寄らばか言の繁けむ

1499: 言繁み君は来まさず霍公鳥汝れだに来鳴け朝戸開かむ

1515: 言繁き里に住まずは今朝鳴きし雁にたぐひて行かましものを

1793: 垣ほなす人の横言繁みかも逢はぬ日数多く月の経ぬらむ

1983: 人言は夏野の草の繁くとも妹と我れとし携はり寝ば

2305: 旅にすら紐解くものを言繁みまろ寝ぞ我がする長きこの夜を

2307: 黄葉に置く白露の色端にも出でじと思へば言の繁けく

2387: 日並べば人知りぬべし今日の日は千年のごともありこせぬかも

2397: しましくも見ぬば恋ほしき我妹子を日に日に来れば言の繁けく

2398: たまきはる世までと定め頼みたる君によりてし言の繁けく

2405: 垣ほなす人は言へども高麗錦紐解き開けし君ならなくに

2413: 故もなく我が下紐を解けしめて人にな知らせ直に逢ふまでに

2438: 人言はしましぞ我妹綱手引く海ゆまさりて深くしぞ思ふ

2439: 近江の海沖つ島山奥まけて我が思ふ妹が言の繁けく

2455: 我がゆゑに言はれし妹は高山の嶺の朝霧過ぎにけむかも

2459: 我が背子が浜行く風のいや早に言を早みかいや逢はずあらむ

2468: 港葦に交じれる草のしり草の人皆知りぬ我が下思ひは

2480: 道の辺のいちしの花のいちしろく人皆知りぬ我が恋妻は

2492: 思ひにしあまりにしかばにほ鳥のなづさひ来しを人見けむかも

2499: 我妹子に恋ひしわたれば剣大刀名の惜しけくも思ひかねつも

2524: 我が背子に直に逢はばこそ名は立ため言の通ひに何かそこゆゑ

2531: 我が背子がその名告らじとたまきはる命は捨てつ忘れたまふな

2535: おほろかの心は思はじ我がゆゑに人に言痛く言はれしものを

2561: 人言の繁き間守りて逢ふともやなほ我が上に言の繁けむ

2562: 里人の言寄せ妻を荒垣の外にや我が見む憎くあらなくに

2576: 人間守り葦垣越しに我妹子を相見しからに言ぞさだ多き

2586: 人言を繁みと君に玉梓の使も遣らず忘ると思ふな

2591: 人言の繁き間守ると逢はずあらばつひにや子らが面忘れなむ

2606: 人目多み常かくのみしさもらはばいづれの時か我が恋ひずあらむ

2621: 摺り衣着りと夢に見つうつつにはいづれの人の言か繁けむ

2639: 葛城の襲津彦真弓新木にも頼めや君が我が名告りけむ

2658: 天雲の八重雲隠り鳴る神の音のみにやも聞きわたりなむ

2663: ちはやぶる神の斎垣も越えぬべし今は我が名の惜しけくもなし

2665: 月しあれば明くらむ別も知らずして寝て我が来しを人見けむかも

2680: 川千鳥棲む沢の上に立つ霧のいちしろけむな相言ひそめてば

2697: 妹が名も我が名も立たば惜しみこそ富士の高嶺の燃えつつわたれ

2711: 奥山の木の葉隠りて行く水の音聞きしより常忘らえず

2712: 言急くは中は淀ませ水無川絶ゆといふことをありこすなゆめ

2717: 朝東風にゐで越す波の外目にも逢はぬものゆゑ瀧もとどろに

2718: 高山の岩もとたぎち行く水の音には立てじ恋ひて死ぬとも

2719: 隠り沼の下に恋ふれば飽き足らず人に語りつ忌むべきものを

2723: あまたあらぬ名をしも惜しみ埋れ木の下ゆぞ恋ふるゆくへ知らずて

2725: 白真砂御津の埴生の色に出でて言はなくのみぞ我が恋ふらくは

2726: 風吹かぬ浦に波立ちなき名をも我れは負へるか逢ふとはなしに

2728: 近江の海沖つ島山奥まへて我が思ふ妹が言の繁けく

2730: 紀の海の名高の浦に寄する波音高きかも逢はぬ子ゆゑに

2731: 牛窓の波の潮騒島響み寄そりし君は逢はずかもあらむ

2745: 港入りの葦別け小舟障り多み我が思ふ君に逢はぬころかも

2755: 浅茅原刈り標さして空言も寄そりし君が言をし待たむ

2762: 葦垣の中の和草にこやかに我れと笑まして人に知らゆな

2767: あしひきの山橘の色に出でて我は恋なむを人目難みすな

2768: 葦鶴の騒く入江の白菅の知らせむためと言痛かるかも

2772: 真野の池の小菅を笠に縫はずして人の遠名を立つべきものか

2778: 水底に生ふる玉藻の生ひ出でずよしこのころはかくて通はむ

2799: 人言を繁みと君を鶉鳴く人の古家に語らひて遣りつ

2828: 紅の深染めの衣を下に着ば人の見らくににほひ出でむかも

2840: いくばくも降らぬ雨ゆゑ我が背子が御名のここだく瀧もとどろに

2848: 直に会はずあるはうべなり夢にだに何しか人の言の繁けむ

2852: 人言の繁き時には我妹子し衣にありせば下に着ましを

2855: 新治の今作る道さやかにも聞きてけるかも妹が上のことを

2861: 礒の上に生ふる小松の名を惜しみ人に知らえず恋ひわたるかも

2871: 人言の讒しを聞きて玉桙の道にも逢はじと言へりし我妹

2872: 逢はなくも憂しと思へばいや増しに人言繁く聞こえ来るかも

2873: 里人も語り継ぐがねよしゑやし恋ひても死なむ誰が名ならめや

2876: 里近く家や居るべきこの我が目の人目をしつつ恋の繁けく

2879: み空行く名の惜しけくも我れはなし逢はぬ日まねく年の経ぬれば

2886: 人言はまこと言痛くなりぬともそこに障らむ我れにあらなくに

2895: 人言を繁み言痛み我妹子に去にし月よりいまだ逢はぬかも

2910: 心には千重に百重に思へれど人目を多み妹に逢はぬかも

2911: 人目多み目こそ忍ぶれすくなくも心のうちに我が思はなくに

2912: 人の見て言とがめせぬ夢に我れ今夜至らむ宿閉すなゆめ

2923: ただ今日も君には逢はめど人言を繁み逢はずて恋ひわたるかも

2932: 心には燃えて思へどうつせみの人目を繁み妹に逢はぬかも

2938: 人言を繁み言痛み我が背子を目には見れども逢ふよしもなし

2944: 人言を繁みと妹に逢はずして心のうちに恋ふるこのころ

2947: 思ひにしあまりにしかばすべをなみ我れは言ひてき忌むべきものを

2958: 人の見て言とがめせぬ夢にだにやまず見えこそ我が恋やまむ

2984: 剣大刀名の惜しけくも我れはなしこのころの間の恋の繁きに

3016: 山川の瀧にまされる恋すとぞ人知りにける間なくし思へば

3017: あしひきの山川水の音に出でず人の子ゆゑに恋ひわたるかも

3020: 斑鳩の因可の池のよろしくも君を言はねば思ひぞ我がする

3023: 隠り沼の下ゆ恋ひあまり白波のいちしろく出でぬ人の知るべく

3059: 百に千に人は言ふとも月草のうつろふ心我れ持ためやも

3090: 葦辺行く鴨の羽音の音のみに聞きつつもとな恋ひわたるかも

3104: 逢はむとは千度思へどあり通ふ人目を多み恋つつぞ居る

3105: 人目多み直に逢はずてけだしくも我が恋ひ死なば誰が名ならむも

3107: うつせみの人目を繁み逢はずして年の経ぬれば生けりともなし

3108: うつせみの人目繁くはぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ

3109: ねもころに思ふ我妹を人言の繁きによりて淀むころかも

3110: 人言の繁くしあらば君も我れも絶えむと言ひて逢ひしものかも

3114: ありありて我れも逢はむと思へども人の言こそ繁き君にあれ

3122: 心なき雨にもあるか人目守り乏しき妹に今日だに逢はむを

3135: 近くあれば名のみも聞きて慰めつ今夜ゆ恋のいやまさりなむ

3167: 波の間ゆ雲居に見ゆる粟島の逢はぬものゆゑ我に寄そる子ら

3184: 草枕旅行く君を人目多み袖振らずしてあまた悔しも

3284: 菅の根のねもころごろに我が思へる.......(長歌)

3300: おしてる難波の崎に引き泝る.......(長歌)

3371: 足柄のみ坂畏み曇り夜の我が下ばへをこち出つるかも

3374: 武蔵野に占部肩焼きまさでにも告らぬ君が名占に出にけり

3376: 恋しけば袖も振らむを武蔵野のうけらが花の色に出なゆめ

3408: 新田山嶺にはつかなな我に寄そりはしなる子らしあやに愛しも

3409: 伊香保ろに天雲い継ぎかぬまづく人とおたはふいざ寝しめとら

3446: 妹なろが使ふ川津のささら荻葦と人言語りよらしも

3456: うつせみの八十言のへは繁くとも争ひかねて我を言なすな

3463: ま遠くの野にも逢はなむ心なく里のみ中に逢へる背なかも

3464: 人言の繁きによりてまを薦の同じ枕は我はまかじやも

3466: ま愛しみ寝れば言に出さ寝なへば心の緒ろに乗りて愛しも

3468: 山鳥の峰ろのはつをに鏡懸け唱ふべみこそ汝に寄そりけめ

3478: 遠しとふ故奈の白嶺に逢ほしだも逢はのへしだも汝にこそ寄され

3488: 生ふしもとこの本山のましばにも告らぬ妹が名かたに出でむかも

3490: 梓弓末は寄り寝むまさかこそ人目を多み汝をはしに置けれ

3497: 川上の根白高萱あやにあやにさ寝さ寝てこそ言に出にしか

3512: 一嶺ろに言はるものから青嶺ろにいさよふ雲の寄そり妻はも

3538: 広橋を馬越しがねて心のみ妹がり遣りて我はここにして

3548: 鳴る瀬ろにこつの寄すなすいとのきて愛しけ背ろに人さへ寄すも

3552: まつが浦にさわゑうら立ちま人言思ほすなもろ我が思ほのすも

3553: あじかまの可家の港に入る潮のこてたずくもが入りて寝まくも

3555: 麻久良我の許我の渡りの韓楫の音高しもな寝なへ子ゆゑに

3556: 潮船の置かれば愛しさ寝つれば人言繁し汝をどかもしむ

3559: 大船を舳ゆも艫ゆも堅めてし許曽の里人あらはさめかも

3560: ま金ふく丹生のま朱の色に出て言はなくのみぞ我が恋ふらくは

3935: 隠り沼の下ゆ恋ひあまり白波のいちしろく出でぬ人の知るべく

4039: 音のみに聞きて目に見ぬ布勢の浦を見ずは上らじ年は経ぬとも

補足

更新日: 2021年01月24日(日)