雑歌(ぞうか)だけが載っている巻です。「梅花の歌」はよく知られるようになりました。大伴旅人(おおとものたびと)、山上憶良(やまのうえのおくら)に関わる歌が目立ちます。
- This volume includes "Plum Blossom Poems" which is the source of the era "Reiwa."
0793: 世間は空しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり
0794: 大君の遠の朝廷としらぬひ筑紫の国に.......(長歌)
0795: 家に行きていかにか我がせむ枕付く妻屋寂しく思ほゆべしも
0796: はしきよしかくのみからに慕ひ来し妹が心のすべもすべなさ
0797: 悔しかもかく知らませばあをによし国内ことごと見せましものを
0798: 妹が見し楝の花は散りぬべし我が泣く涙いまだ干なくに
0799: 大野山霧立ちわたる我が嘆くおきその風に霧立ちわたる
0800: 父母を見れば貴し妻子見ればめぐし愛し.......(長歌)
0801: ひさかたの天道は遠しなほなほに家に帰りて業を為まさに
0802: 瓜食めば子ども思ほゆ栗食めば.......(長歌)
0803: 銀も金も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも
0804: 世間のすべなきものは年月は流るるごとし.......(長歌)
0805: 常磐なすかくしもがもと思へども世の事なれば留みかねつも
0806: 龍の馬も今も得てしかあをによし奈良の都に行きて来むため
0807: うつつには逢ふよしもなしぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ
0808: 龍の馬を我れは求めむあをによし奈良の都に来む人のたに
0809: 直に逢はずあらくも多く敷栲の枕去らずて夢にし見えむ
0810: いかにあらむ日の時にかも声知らむ人の膝の上我が枕かむ
0811: 言とはぬ木にはありともうるはしき君が手馴れの琴にしあるべし
0812: 言とはぬ木にもありとも我が背子が手馴れの御琴地に置かめやも
0813: かけまくはあやに畏し足日女神の命韓国を.......(長歌)
0814: 天地のともに久しく言ひ継げとこの奇し御魂敷かしけらしも
梅花の歌 32首(併せて序)
0815: 正月立ち春の来らばかくしこそ梅を招きつつ楽しき終へめ
(「年号 令和」のもととなった序はここに記載しました)
0816: 梅の花今咲けるごと散り過ぎず我が家の園にありこせぬかも
0817: 梅の花咲きたる園の青柳は蘰にすべくなりにけらずや
0818: 春さればまづ咲くやどの梅の花独り見つつや春日暮らさむ
0819: 世の中は恋繁しゑやかくしあらば梅の花にもならましものを
0820: 梅の花今盛りなり思ふどちかざしにしてな今盛りなり
0821: 青柳梅との花を折りかざし飲みての後は散りぬともよし
0822: 我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも
0823: 梅の花散らくはいづくしかすがにこの城の山に雪は降りつつ
0824: 梅の花散らまく惜しみ我が園の竹の林に鴬鳴くも
0825: 梅の花咲きたる園の青柳を蘰にしつつ遊び暮らさな
0826: うち靡く春の柳と我がやどの梅の花とをいかにか分かむ
0827: 春されば木末隠りて鴬ぞ鳴きて去ぬなる梅が下枝に
0828: 人ごとに折りかざしつつ遊べどもいやめづらしき梅の花かも
0829: 梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや
0830: 万代に年は来経とも梅の花絶ゆることなく咲きわたるべし
0831: 春なればうべも咲きたる梅の花君を思ふと夜寐も寝なくに
0832: 梅の花折りてかざせる諸人は今日の間は楽しくあるべし
0833: 年のはに春の来らばかくしこそ梅をかざして楽しく飲まめ
0834: 梅の花今盛りなり百鳥の声の恋しき春来るらし
0835: 春さらば逢はむと思ひし梅の花今日の遊びに相見つるかも
0836: 梅の花手折りかざして遊べども飽き足らぬ日は今日にしありけり
0837: 春の野に鳴くや鴬なつけむと我が家の園に梅が花咲く
0838: 梅の花散り乱ひたる岡びには鴬鳴くも春かたまけて
0839: 春の野に霧立ちわたり降る雪と人の見るまで梅の花散る
0840: 春柳かづらに折りし梅の花誰れか浮かべし酒坏の上に
0841: 鴬の音聞くなへに梅の花我家の園に咲きて散る見ゆ
0842: 我がやどの梅の下枝に遊びつつ鴬鳴くも散らまく惜しみ
0843: 梅の花折りかざしつつ諸人の遊ぶを見れば都しぞ思ふ
0844: 妹が家に雪かも降ると見るまでにここだもまがふ梅の花かも
0845: 鴬の待ちかてにせし梅が花散らずありこそ思ふ子がため
0846: 霞立つ長き春日をかざせれどいやなつかしき梅の花かも
↑ 梅花の歌 32首 ここまで。
0849: 残りたる雪に交れる梅の花早くな散りそ雪は消ぬとも
0850: 雪の色を奪ひて咲ける梅の花今盛りなり見む人もがも
0851: 我がやどに盛りに咲ける梅の花散るべくなりぬ見む人もがも
0852: 梅の花夢に語らくみやびたる花と我れ思ふ酒に浮かべこそ
0853: あさりする海人の子どもと人は言へど見るに知らえぬ貴人の子と
0854: 玉島のこの川上に家はあれど君をやさしみあらはさずありき
0855: 松浦川川の瀬光り鮎釣ると立たせる妹が裳の裾濡れぬ
0856: 松浦なる玉島川に鮎釣ると立たせる子らが家道知らずも
0857: 遠つ人松浦の川に若鮎釣る妹が手本を我れこそ卷かめ
0858: 若鮎釣る松浦の川の川なみの並にし思はば我れ恋ひめやも
0859: 春されば我家の里の川門には鮎子さ走る君待ちがてに
0860: 松浦川七瀬の淀は淀むとも我れは淀まず君をし待たむ
0861: 松浦川川の瀬早み紅の裳の裾濡れて鮎か釣るらむ
0862: 人皆の見らむ松浦の玉島を見ずてや我れは恋ひつつ居らむ
0863: 松浦川玉島の浦に若鮎釣る妹らを見らむ人の羨しさ
0864: 後れ居て長恋せずは御園生の梅の花にもならましものを
0865: 君を待つ松浦の浦の娘子らは常世の国の海人娘子かも
0866: はろはろに思ほゆるかも白雲の千重に隔てる筑紫の国は
0867: 君が行き日長くなりぬ奈良道なる山斎の木立も神さびにけり
0868: 松浦県佐用姫の子が領巾振りし山の名のみや聞きつつ居らむ
0869: 足姫神の命の魚釣らすとみ立たしせりし石を誰れ見き
0870: 百日しも行かぬ松浦道今日行きて明日は来なむを何か障れる
0871: 遠つ人松浦佐用姫夫恋ひに領巾振りしより負へる山の名
0872: 山の名と言ひ継げとかも佐用姫がこの山の上に領巾を振りけむ
0873: 万世に語り継げとしこの丘に領巾振りけらし松浦佐用姫
0874: 海原の沖行く船を帰れとか領巾振らしけむ松浦佐用姫
0875: 行く船を振り留みかねいかばかり恋しくありけむ松浦佐用姫
0876: 天飛ぶや鳥にもがもや都まで送りまをして飛び帰るもの
0877: ひともねのうらぶれ居るに龍田山御馬近づかば忘らしなむか
0878: 言ひつつも後こそ知らめとのしくも寂しけめやも君いまさずして
0879: 万世にいましたまひて天の下奏したまはね朝廷去らずて
0880: 天離る鄙に五年住まひつつ都のてぶり忘らえにけり
0881: かくのみや息づき居らむあらたまの来経行く年の限り知らずて
0882: 我が主の御霊賜ひて春さらば奈良の都に召上げたまはね
0883: 音に聞き目にはいまだ見ず佐用姫が領巾振りきとふ君松浦山
0884: 国遠き道の長手をおほほしく今日や過ぎなむ言どひもなく
0885: 朝露の消やすき我が身他国に過ぎかてぬかも親の目を欲り
0886: うちひさす宮へ上るとたらちしや母が手離れ.......(長歌)
0887: たらちしの母が目見ずておほほしくいづち向きてか我が別るらむ
0888: 常知らぬ道の長手をくれくれといかにか行かむ糧はなしに
0889: 家にありて母がとり見ば慰むる心はあらまし死なば死ぬとも
0890: 出でて行きし日を数へつつ今日今日と我を待たすらむ父母らはも
0891: 一世にはふたたび見えぬ父母を置きてや長く我が別れなむ
0892: 風雑り雨降る夜の雨雑り雪降る夜は.......(長歌)
0893: 世間を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
0894: 神代より言ひ伝て来らくそらみつ大和の国は.......(長歌)
0895: 大伴の御津の松原かき掃きて我れ立ち待たむ早帰りませ
0896: 難波津に御船泊てぬと聞こえ来ば紐解き放けて立ち走りせむ
0897: たまきはるうちの限りは平らけく安くも.......(長歌)
0898: 慰むる心はなしに雲隠り鳴き行く鳥の音のみし泣かゆ
0899: すべもなく苦しくあれば出で走り去ななと思へどこらに障りぬ
0900: 富人の家の子どもの着る身なみ腐し捨つらむ絹綿らはも
0901: 荒栲の布衣をだに着せかてにかくや嘆かむ為むすべをなみ
0902: 水沫なすもろき命も栲縄の千尋にもがと願ひ暮らしつ
0903: しつたまき数にもあらぬ身にはあれど千年にもがと思ほゆるかも
0904: 世間の貴び願ふ七種の宝も我れは何せむに.......(長歌)
0905: 若ければ道行き知らじ賄はせむ黄泉の使負ひて通らせ
0906: 布施置きて我れは祈ひ祷むあざむかず直に率行きて天道知らしめ